藤沢レイ

小説書いてます

第2話(終)『シャウト』――この世界の神話

『シャウト』――この世界の神話

 

第二話(終)

 

ピコはそれから、一人で歌い続けた。

路上で、公園で、イベントで、学校で、ライブハウスで――場所を選ばず、歌い、踊った。

REMU時代の知名度もあって、ピコが現れるとたちまち人だかりができた。けれど、観客が数人しかいないような場所でも、ピコは歌った。

 

ピコが求めていたのは、「売れること」でも「お金」でもなかった。

たとえ一銭にもならなくても、歌い続ける。別の仕事をしながらでも構わない。

自分の歌が、たった一人でもいい、誰かの心を救うかもしれない――その想いだけがピコを動かしていた。

 

ピコの歌に心を打たれ、涙を流す人も多くいた。

初めて「自分の歌で、誰かを救えている」という実感が湧いた。

 

そんなある日、ピコの歌声を耳にした音楽プロデューサー、佐久間という男が現れる。

佐久間は、今のAI社会に限界を感じ、人々を救いたいと願っていた。ピコとその想いは重なり、意気投合した二人はグループ結成を決意する。

名前は《シャウト》。

それは「たとえ一銭にもならなくても、売れなくても、地位も名誉もスコアもなくても、たった一人を救えるなら生涯歌い続ける」という信念のもとに立ち上がったグループだった。

 

この時代、シャウトのような感情をむき出しにする音楽は、AI社会に認められず、表舞台に立つことは難しい。

けれど、それでも始めた。

 

最初に加わったのは、佐久間が連れてきたミラン

彼女にもまた、過去に深い傷があり、ピコとはすぐに心を通わせた。

ピコとミランルームシェアを始め、次第に親友以上、家族以上の存在となっていった。佐久間もまた、常に二人と行動を共にした。

 

佐久間には妻と、中学生の息子がいた。

その息子もまた、スコア社会の中で挫折し、学校に行かず、引きこもるようになっていた。

ピコとミランは、よく佐久間の家を訪れ、息子とゲームをしたり遊んだりしていた。佐久間は息子を深く愛していた。

「シャウト」というグループには、彼のそんな息子への想い、苦しみ、社会への叫びも込められていた。

 

ある日、打ち合わせのためにピコとミランは佐久間のマンションを訪れる。妻は外出中で、息子が一人で留守番をしているという。

だが、到着してみると――

 

息子は、すでに自ら命を絶っていた。

 

佐久間の心は叫びと共に崩壊した。

ピコとミランの心も壊れた。

 

そして、息子が遺した手紙には、こう書かれていた。

「パパ、ママ、ありがとう。ごめんなさい。ピコさん、ミランさん、シャウト、頑張ってください。」

 

ピコにとって、この出来事は生涯忘れられない痛みとなった。

彼女はその子を本当に可愛がっていたのだ。ピコはまた毎日のように泣き続けた。泣かないと誓ったのに。

 

ピコは彼のために《レクイエム》という曲を作った。

けれど、その曲を歌うことは、どうしてもできなかった。

 

時間が経ち、ピコとミランは再び立ち上がり、シャウトの活動を再開した。

佐久間は、無期限休業することになった。

 

シャウトを結成してから、4年が過ぎた。

メンバーは、当初の計画通り5人となった。

ピコ、ミランネム、シェイラ、トキ。

この5人で生涯歌い続けることを、心から誓い合った。

 

この日、ライブの会場は《ゼロポイント》――都市のスラムと呼ばれる場所だった。

そこには、都市から排除された人々が集まり、路上で眠り、孤独に震えていた。

 

廃ビルの地下。

ゼロポイントの人々がギュウギュウに詰めかけていた。

REMU時代のピコの人気は、今なお根強く残っていた。

 

ピコが軽く挨拶を済ませると、シャウトのメンバーが立ち上がり、歌い、踊り始めた――。

 

 

---

 

『シャウト』

 

歪んだ世界で

グシャグシャに壊れたこの心

命を繋ぐのに必死な毎日だ

ドス黒い夜の闇しか僕らを受け入れてはくれないのに その夜さえも恐れているのはなぜ

剥き出しの感情が今 ここに溢れてる

 

叫べ

この世界の不条理を 苦しみを

叫べ

生きにくさを 命の弱さを

叫べ

孤独の悲しみを 心の声を

 

 

居場所のない世界で

押し潰されたこの心

涙を拭くのに必死な毎日だ

未来などとうにないはずなのに未来を生きたいのはなぜ

叫ばなければ生きれない思いが今溢れてる

 

叫べ

私はここにいると 声が枯れても

叫べ

私には価値があると 存在を否定されても

叫べ

私は生きるんだと 全て終わりにしたくても

泣き叫べ

一緒に泣いてくれる誰かと共に

 

---

 

ピコが歌っていると、ふとある男性と目が合った。

それは――タクミだった。

あの時のタクミ。

 

ピコは一瞬驚いたが、すぐに心が温かくなった。

「タクミくん、ここにいたんだね……あれから随分経ったね。今の私なら、胸を張って君に会えるよ」

そんな想いが胸に広がる。

 

ライブが終わると、ゼロポイントの人々は歓声を上げ、涙する者もたくさんいた。

 

その後、ピコはタクミと再会し、久しぶりの会話を交わした。

 

――

 

それから5年――2055年。

シャウトは世界的なアーティストとなっていた。

かつてのREMU時代を遥かに超え、ピコの名前は世界中に知られていた。

 

2050年頃から都市のAI支配社会は揺らぎ始めていた。

カオス村が各地で急増し、都市からの人々の流出が止まらなくなっていたのだ。

それに伴い、都市の統制メディアも緩み、シャウトは表舞台に立つ機会を得た。

ピコのかつての知名度と、数年にわたる草の根活動が呼応するように、大きなうねりが巻き起こった。

 

だが、シャウトの5人のメンバーのうち、最も古参でピコと最も親しかったミランが、病に倒れた。

容体は深刻で、医師から「もう時間は長くない」と告げられていた。

 

そんな中、世界最大の歌の祭典――地球全体に生中継される舞台のラストアクトを、シャウトが飾ることとなった。

ミランは「最後に、もう一度だけ、シャウトの歌を聴きたい」と願った。

酸素ボンベをつけたまま、ストレッチャーに乗せられ、ミランは会場に運ばれた。

 

音楽が鳴り響く。

だが、ピコはミランの姿を見た瞬間、声が出なくなった。

立ち尽くすピコ。

観客も演者もザワつく。

メンバーたちも動きを止め、ただピコを見守る。

 

佐久間が駆け寄る。

「ピコ、歌え……ミランが見てるぞ。頼む、歌ってくれ」

ピコは泣きながら、かすかに首を振った。

その姿に、佐久間は叫んだ。

 

「歌えッッ!!!」

 

ピコの胸ぐらを掴み、声を枯らして叫ぶ。

 

「歌ええええええッッッ!!!」

 

その声に、会場全体が静まりかえった。

直後、ミランが急変し、医療スタッフが慌ただしく駆け寄る。

佐久間は呆然としながら、泣き崩れるようにミランの元へ駆けた。

 

ミラン……ミランっ……!」

 

ピコは膝から崩れ落ちた。

メンバーたちとスタッフが、涙をこらえながらピコを抱え、バックヤードへ。

世界中が見守る中、会場はまるで時間が止まったようだった。

 

――あの日を境に、シャウトはAIによって全メディアから強制排除された。

未だ都市に残るAI支配の残骸が、最後の抵抗のように牙を剥いた。

シャウトへの激しいバッシングが、コスモス国の都市から世界中に報道された。

 

だがそれが、むしろ決定打となる。

都市からの流出はさらに加速し、カオス村は新たな時代の希望として広がっていった。

都市は、静かにその力を失っていった。

 

――5年後。

ピコは一度も歌っていなかった。

あの日以来、歌うことができなかった。

 

けれど、シャウトは止まらなかった。

佐久間と他のメンバーにより、活動は続けられていた。

 

そしてある日。

ピコはミランの墓の前に立っていた。

そこへ、佐久間が現れる。

 

「久しぶりだな、ピコ。今日は命日だったな」

「はい……」

「あれから、もう5年か」

「はい……早いですね」

 

しばしの沈黙のあと、佐久間が言った。

ミランが最後にオレに言った言葉、なんだと思う?」

ピコは黙ったままだった。

 

「“ピコ、救って、みんなを”――そう言ったんだ」

 

その言葉に、ピコは泣き崩れた。

歌えなかった後悔。

届かなかった想い。

そのすべてが涙に変わって溢れた。

 

――数年後。

メモリアル・オリオン区で、世界最大の平和の祭典が開催された。

そこに、シャウトの名があった。

復帰後、初のピコのステージだった。

 

世界中が見守る中、ピコがマイクの前に立つ。

 

「皆さん……以前はいろいろとご迷惑をおかけしました。

 そして今日、ようやく戻ってくることができました。

 心から、ありがとうございます」

 

静まり返る会場。

 

「それでは、聴いてください。

 ――『レクイエム』」

 

それは、かつてピコが作った曲。

歌うことが出来ず封印していた楽曲だった。

 

 

---

 

『レクイエム』

 

ねぇ キミがいるだけで

キミがいるだけでいいんだ

キミがいて 一緒にいるだけで

幸せだって

何てことない毎日の中で

一瞬一瞬がボクにとって幸せなんだ ずっとずっと一緒にいるんだ

キミがいる それだけで いいんだ

何もなくても

キミが周りからどう思われようとも ありのまま愛してる

キミがいるだけで嬉しくて

キミがいなくなったら悲しくて寂しくて

 

そばにいてよ ずっと

ずっと そばにいたいよ

一緒に生きていたいよ

大切だよ

いなくならないでよ

どうか どうか

どうか どうかそばにいてよ

どうかそばにいて いなくならないで どうかそばにいて

どうか どうかお願いだから

どうしてこの思い、伝えられなかったんだろう

どうして人生は無常だとしらなかったのだろう

大切に思ってたよずっと ボクの命より

ごめんね守ってあげられなくて

 

キミが救われるなら

キミの苦しみや、痛みを、ボクにください

どうか お願いだから お願いだから

どうか どうかキミの苦しみをボクにください ボクにください

何も気づかなかったボクに罰をください

何もできなかったボクを裁いてください

お願いです 神様

どうか どうか どうか

苦しみをボクに与え続けてください

どうか どうか どうか

どうか どうか

 

---

 

佐久間は号泣していた。

ピコとメンバーの歌声が、世界中に響きわたった。

 

 

 

――そして、2130年。

 

この日も、シャウトのコンサートが開かれていた。

一度も止まることなく、ピコとメンバーは歌い続けていた。

シャウトに救われた人々が、世界中から集まっていた。

 

ピコが話す。

 

「今日は来てくれて、ありがとう。

 本日最後の曲になります。お聴きください」

 

 

−−− 

 

歓喜の歌』

 

この世界は美しいよ

みんなが手を取り合って生きているよ

争いも 憎しみも もうないよ

差別も 排他も もうないよ 

みんながみんなそれぞれを認めあっているよ

みんなが幸せに自由に生きているよ

この世界は美しいよ

ありがとうね みんな

ありがとうね みんな

嬉しいよこの世界

たくさんの悲しみ、苦しみ、世界は乗り越えて辿りついた

喜びの世界

さぁみんな幸せを歌おう

喜びを歌おう

この世界に歓喜しよう

 

−−−

 

結成当時から見れば、世界は激変していた。

誰もが自由に、幸せに生きられる時代になった。

 

そして、その変化に最も大きな影響を与えた存在の一つ――

それが、シャウトだった。

 

 

 

 

シャウトは、この世界の神話となった。

 

 

 

――End――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話『シャウト』――この世界の神話

この作品は本編『シャウト』のスピンオフ作品となります。この作品単体でも読めるようになっておりますが、よろしければ本編をお読みください。

 

第一話 救済

 

2042年コスモス国の都市。  

日常のほとんどがAIに代替された時代で

ピコは、誰にも“感情”というものを共有してもらえなかった。  

  

ピコは、学校でいじめられていた。

無視され、陰口を言われる毎日。

目立たず、地味で、大人しい――それだけで、いじめの標的になった。

友達は一人もいない。誰かがピコと話せば、その子も巻き込まれるかもしれない。

だから、誰も近づこうとしなかった。

 

休み時間も、昼食も、グループ分けも、いつだって独りぼっち。

教室の中でピコの居場所は、最初からなかった。

 

帰宅後、部屋にこもって泣いた。

大好きだったアイドルグループの曲を聴きながら、毎晩、涙を流した。

もう何をどうしても救われない気がした。

そのグループはすでに解散していたが、メンバー全員がピコの通う学校の卒業生だったため、学校でも話題になることが多かった。

 

でも、どれだけ泣いても、何も変わらなかった。

涙は溢れ続け、心はどんどん弱くなっていく。

 

――もう全部投げ出したい。

――せめて、いつか笑いたい。

――だけど、私は無価値な人間なんだ。

――なんかもう、生きることに疲れた。

 

家でも、心休まることはなかった。

母親は叱るたびにピコの頭を叩いた。

一度も、認めてもらえた記憶はない。

父親は無関心で、弟だけが母に愛されていた。

 

ある日、ピコは仮病を使って学校を休んだ。

それほどまでに、心が限界だった。

「もう少しだけ頑張ろう」

そんな思いも、もうすぐ限界だった。

 

「今日、学校が爆発すればいいのに」

「飛行機でも突っ込めばいいのに」

そんな過激な願いさえ、心に浮かぶようになっていた。

 

翌朝、母親に言われ、仕方なく学校へ行った。

また陰口が聞こえる。明らかに、自分に聞かせるように。

「大丈夫、大丈夫、私はまだ大丈夫」

そう自分に言い聞かせ、心をごまかした。

 

その日の最後の授業前の休み時間。

トイレから戻ったピコの机に、一枚の紙が置かれていた。

 

――「死んでください」

 

たったそれだけの言葉だった。

でも、それを見た瞬間、ピコの心は崩壊した。

授業中、何も聞こえず、何も見えず、ただぼんやりと時間が過ぎていく。

 

放課後。

生徒たちが帰っても、ピコは動けなかった。

一人きり、教室に取り残されていた。

 

「もう、私は大丈夫じゃない」

そう呟いて、窓辺に立った。

飛び降りて、すべてを終わらせようと決めた。

 

こんなとき、大切に育ててくれた親がいたなら、躊躇できたかもしれない。

でも、私にはそれがなかった。

 

「……お願いだから、死ぬことを躊躇させてよ」

 

――その瞬間。

 

スピーカーから音楽が流れた。

時刻は17時ちょうど。

この学校では、チャイムの代わりに一曲の音楽が流れる。

それは、ピコが夢中になって聴いていた、あのアイドルグループの曲だった。

 

 

---

 

『世界は広い』

 

狭い世界が、自分の中で世界のすべてだって思ったりする。

ここが自分の居場所で、ここにしか居場所はない。

そう思ってるかもしれない。

 

でもね、本当はね、世界は広いんだよ。

キミは檻の中にいるように思えても、世界は広いんだよ。

 

泣きたいとき、いつだって泣いていい。

逃げたいとき、いつだって逃げていい。

 

泥まみれになって、人から後ろ指さされたっていい。

孤独になったって、みんなと違う生き方だっていい。

 

きっといつか、「世界は広かった」って気づくから。

きっと、自分だけの道をたった一人歩んだとしても、

その道の先で、同じような思い抱えた誰かと会えるから。

 

大丈夫だよ。世界は、広いから。

 

でもね、わかるのは、もっと後だよ。

キミが今、涙に濡れ、悲しみ苦しんでるとしたら、

その気持ち、忘れないでもっていて。

 

きっといつか、キミが誰かを救えるから。

世界は広いよ。きっと未来で、誰かがキミを待っているよ。

 

キミがボクの歌を聴いたように、

きっと誰かが未来で、キミから何かを受け取りたがっているよ。

 

 

---

 

 

その歌を聴いた瞬間、ピコは崩れるように泣き出した。

しゃくりあげながら、ただ泣いた。

誰もいない教室で、音楽だけが優しく流れていた。

 

「……もう少しだけ、もう少しだけ頑張ってみよう」

 

そう呟いて、ピコは窓から離れた。

 

 

---

 

ピコの状況は、それからも大きく変わることはなかった。

学校では相変わらずいじめられ、家では冷たくあしらわれる日々が続いた。

 

けれど、ほんの少しだけ、心の奥に灯る光があった。

「ピコって、声だけは綺麗だよね」

そんな言葉を、何度か耳にしたことがあった。

 

その言葉を支えにするように、ピコは歌に惹かれていった。

歌うことで、誰にも言えない気持ちが少しずつ吐き出せる気がした。

やがて歌手になりたいと思うようになり、

独りで部屋にこもって歌の練習をしたり、

スマホでダンス動画を見ながら体を動かしたりする日々が始まった。

 

作詞や作曲にも挑戦するようになり、

気がつけばピコは、何かに夢中になる時間を手にし始めていた。

 

自分を少しでも好きになりたくて、ダイエットも始めた。

化粧の仕方を学ぶために、動画を繰り返し見ては鏡の前で練習した。

 

やがて2年が過ぎ、ピコは高校を卒業した。

卒業と同時に地元を離れ、就職し、一人暮らしを始めた。

 

昼は真面目に働き、夜はアイドルや芸能人を育成する養成所に通う日々。

何度も不安になったし、くじけそうになった。

それでもピコは、

あの日、自分を救ってくれた“あの歌”を思い出しながら、

夢を追いかけていた。

 

---

 

ある日、ピコは街を歩いていた。

そのとき声をかけてきたのが、彼だった。

 

彼は、ピコのすべてを初めて肯定してくれた。

「君は君のままでいい」

そう言って、ピコを愛してくれた。

 

突然の出会いに最初は戸惑ったが、ピコはこれが運命だと感じた。

心の奥に差し込んだ一筋の光。

それは、生きていて初めての“愛されている実感”だった。

 

やがて、ふたりは一緒に暮らし始める。

ピコは幸せだった。

この人となら、自分を信じられる気がした。

 

――しかし、それも長くは続かなかった。

 

ある日、仕事から帰宅したピコが自宅のドアを開けると玄関に見知らぬ女の靴があった。

彼が、他の女を家に連れ込んでいたのだ。ピコはすぐにドアを閉め走り去った。

 

すべてが音を立てて崩れた。

信じていたものが、一瞬で裏切りに変わった。

心が、バラバラに砕けた。

 

その崩壊の時にすがったのは、かつてピコを支えてくれた――

あのアイドルグループの音楽だった。

 

イヤホンをつけ、涙を流しながら毎晩その曲を聴いた。

どれだけ泣いても、絶望は止まらなかった。

それでも、ある夜ピコはふと誓った。

 

「もう、私、絶対に泣かない」

 

そして、ピコは曲を書いた。

 

 

---

 

『強がり』

 

人など信用しない 絶対に

人など愛さない 絶対に

涙など見せない 絶対に

 

だからボクが悲しむことはない

誰かが僕を裏切っても

ボクが落ち込むことはない

誰かがいなくなっても

ボクは泣くことはない

何があったとしても

 

ボクを心から愛してくれる人はいない

ボクが人を心から愛さないから

ボクは人を愛せないから

誰かを愛することはない

 

なぜならボクは怖いから

裏切られたから 心が壊れたから 泣きつづけたから

また愛を失うことが怖い 臆病な人間だから

裏切られるのが怖い

 

だから強がって 仮面つけて

誰も愛さないと決めた

 

愛を失いたくない

だからボクは人を愛せない 愛さない

 

教えて欲しい 愛し方を

人をもう一度愛す 勇気を

傷ついても立ち直れる方法を

自分の弱さ 認められる強さを

変わらぬ愛の形を

 

---

 

彼の裏切りから、すでに数カ月が経っていた。

それでもピコの心は、まだ壊れたままだった。

初めて自分を肯定してくれた――そう信じた相手に裏切られた痛みは、人生の全てが崩れ落ちるほどの衝撃だった。

 

2044年、コスモス国の都市。

そこではすでに、人間の“生きにくさ”は限界を迎えていた。

AIが静かに社会を支配し、あらゆる判断が“生産性”を基準に下されていた。

全てが数値化され、スコアによって人の価値が定められる。

人は“AIが正解とする生き方”から逸脱できなくなり、個性や多様性、弱さまでもが排除される社会が完成していた。

 

そんな冷たい世界の中で、多くの人が心を病み、精神疾患や自殺はもはや異常ではなくなっていた。

やがて、“都市”という檻から脱出しようとする者たちが現れた。

コスモス国の外に、新たな生き方を模索する人々が「村」を作りはじめていた。

その一つが、皮肉を込めて“カオス村”と呼ばれていた。

 

ピコは、自分の痛みと向き合いながら、ネットで同じように苦しむ人々とやりとりを重ねていた。

かつて自分を救ってくれたアイドルのように、自分も誰かの痛みに寄り添える存在になりたい。

その思いだけが、心の支えだった。

 

やがてピコは、同じように“生きにくさ”を抱えるタクミという男性と出会う。

何度か言葉を交わすうち、彼の優しさに、ピコの心は少しずつほどけていった。

そしてピコは、自分の夢――「苦しんでいる人を、救える存在になりたい」と彼に語った。

 

そんなある日、ピコは養成所で才能を見出され、スカウトを受ける。

彼女にはもともと“声”という武器があった。

澄んだ声と、誰かの心に触れるような歌唱力。

さらに、かつての地味な少女は、すでに垢抜けていて、人目を惹く存在になっていた。

 

スカウトの内容は、アイドルグループの新メンバーのオファーだった。

だが、提示された音楽の方向性は、ピコの目指すものとは違っていた。

彼女は「誰かを救う音楽がしたい」と訴えたが、返ってきたのは冷静な現実だった。

――“今の時代、AIが正解と見なす音楽しか、表舞台には出られない”――。

 

その言葉に、ピコは絶望した。

私は、誰も救えないのか。

それでも、強引な勧誘と周囲の熱意に押され、ピコは参加を決意する。

中途半端なまま、REMUというアイドルグループに加入することになった。

 

そんな時、タクミから「また会わないか」と連絡が入った。

けれどピコは、迷いと葛藤の中にいた。

こんな自分は彼に会う資格なんてない――

返信はできなかった。いや、する勇気がなかった。

 

それからの2年は、まるで嵐のようだった。

REMUは一気にスターダムを駆け上がり、ピコはそのセンターとして、国中の人々に知られる存在となった。

 

だが、成功の光の中で、ピコの心には常に影があった。

自分が本当に届けたかったものは、これなのか。

誰かの痛みや苦しみにこの歌で、寄り添えるのか。

 

そして2046年――

ピコは決意する。

名声も金も、スコアもすべてを捨てて、REMUを脱退した。

 

それは、自分を取り戻すための、ほんとうの始まりだった。

 

ピコはまた自分で曲を書いた。

 

−−−

『幻想』

 

どうして 僕ら

幻想の世界に 生きる?

 

夢 希望 願望 成功

勝ち 負け

そんなもの

どれほど追い求めても

幻想だと 知らずに

 

くだらないモノサシで

どれほど比べ合ってきたんだろう

 

目標を作って

追い求めて

輝いて 煌めいていたものは

手に入れてしまったら 幻想だとわかり

 

また 幻想を求め続ける

 

幻想が 幻想だと知った瞬間

人は 壊れる

 

世間のつくり出した

「成功」や「幸せ」のカタチに

縛られないでいて

 

“みんな”という言葉を

信じすぎないで

 

“みんな”という幻想を 知って

その幻想に 苦しんでいる人が

たくさんいるんだよ

 

本当の幸せは

他人が決めることじゃないよ

 

それは 自分の中にあるものだよ

 

その幸せは

世間の幸せの基準と

同じとは 限らない

 

世間の基準に合わない

自分を 否定するのは

 

もう――

やめにして

 

−−−

シャウト 最終話

最終話 魂のシャウト

 

リナがオアシスに来て二日が経過した。かつてエデンで共に幽閉された奴隷達も何人かいる。奴隷達はそれぞれ別々の村に散っていった。

この村、オアシスはとても良い村で村人も仲が良く、支配などはまったくない。リナにとって願ってもない自由がこの村にはあった。ずっと求めていた自由。

だがリナの気持ちは浮かなかった。

リナはあれから、ずっと神崎のことを考えていた。あの時ほかの人達に引っ張られ車に乗せられ今の場所にいる。神崎さんは無事なのだろうか。あの場所で神崎さんの無事を確かめたかった。かなり遠いが、どうしても神崎さんに会いたい。リナは一人、エデンに向かうことにした。長時間歩き、ようやくエデンに着いた。そこには焼け跡しか残らないエデンがあった。建物も全部焼けている。あたりには人が焼けた後の骨も散乱していた。村をくまなく探したが神崎はいなかった。

村の近辺も探したが、神崎の姿はなかった。とりあえず、今日はもう真っ暗だ。今日はここに泊まろう。リナは野宿をすることにした。焚き火をした。

一体、神崎さんはどこにいったのだろう?まさか、燃えて、、、だがそれらしき残骸はなかった。

神崎さんは無事だ。リナは少し安堵した。また、いつか必ず会えるはず。神崎さんと会って、前にした約束を果たしたい。いつか必ず。リナは揺らめく炎を見つめ、強く思った。

翌朝、リナはオアシスに戻った。ここでは収穫などの為にわずかに働くことはあるが、ほとんど働く必要はなかった。みんなゆったりとした時間を過ごしていた。リナは自室で読書したり外に出て、村人と話しをしたりして過ごしていた。

リナがオアシスに来て一ヶ月が経過した。この村にも大分慣れ、村の人とも仲良くなり、リナはみんなから愛されるようになっていた。みんなから、リナちゃん、リナちゃんと呼ばれ可愛がられていた。

どうしてだろう?私はこれまでずっと先天的異常個体とAIにラベルをつけられ、親からも捨てられ、誘拐され、奴隷にされて生きてきた。誰よりも人を、AIを、社会を、人生を、そして何よりも自らを憎んで生きてきた。憎んで憎んで憎み続け、奴隷になりすべてを諦めて抵抗することさえできず、身体も心も搾取されつづけてきた。

だけど、、神崎さんと再会し神崎さんに救われた。存在を肯定してもらえた。今まで否定し続けてきた自らの存在を。初めて自分自身を受け入れることができたのだ。ただ存在してるだけで価値がある。その言葉に、救われた。

世界で一番価値がないと思って生きてきた。だが、それも社会の誤りであることを理解できた。それ以来不思議なことに人を憎む気持ちが以前より減っていた。もちろん完全に消えたわけではないが。だからこそこの村の人達との関わり方も良い方向に進んだのかもしれないと思う。

リナは思う。私を救ってくれたのは間違いなく神崎さんだ。

私も、誰かを救えるように。神崎さんのようになりたい。そう考えるようになった。

リナさんなら人を導けるようになると以前神崎さんは言った。一体なぜだろう。自分を信じることはできない。だが、神崎さんの言葉は信じられる。

愛とは何か?私は分かる日が来るのかな。私の持っていた。そして今ももっている、憎しみ、苦しみ、生きにくさ、痛み。

なぜ私はこんなにも苦しみを持っているの?そしてなぜ人は苦しむのだろう?様々な宗教や思想で愛は大事と言う。なぜ人は愛により救われる?愛。受容、自由、平和。なぜだろう?

リナは来る日も来る日もそのことばかり考えていた。人はどうしたら痛みや苦しみから解放されるのだろう。いつも、リナは村の外れの川辺にこしかけていた。そのまま目をつぶり川のせせらぎを聞き、何時間もそこにいることもしばしばだった。村の人達とも時間を過ごしていたが、リナは毎日そこにいて一人で時間を過ごすことが多かった。リナは稀に夜通しそこに座り続けることもあった。リナが村に来て数カ月が経った。ずっと考え続けていたが、愛とは何か、幸せとは何かの答えがわからずにいた。ある日、リナは神崎の言葉を思い出していた。

人が幸せになる為に必要なこと。人間の欲が暴走しない社会設計と、共有されるべき倫理観などの思想。

人間には本質的な本能に基づく欲求がある。

1. 排他性

自分と異なるものを排除したくなる。環境や価値観を自分にとって都合よく保ちたい。

2. 承認欲求

他者から認められたい、嫌われたくない。他人の認識や評価を制御したい。

3. 比較・序列欲

自他をランクづけし、上位でありたい。社会内の位置関係を優位にコントロールしたい。

4. 同調欲求

集団とズレたくない、空気を壊したくない。集団内の反応や秩序を維持・操作したい。

5. 短期報酬・快楽衝動

今すぐ欲しい・満たしたい。 時間や結果すら思い通りにしたい

6. 未来制御(不安回避)

未来がどうなるか分からないのが怖い。未来を「確定」したくて制御しようとする。

7. 他者制御

他人の感情・行動・自由を操作したくなる。「自分が安心したい」「捨てられたくない」「裏切られたくない」などの動機から生まれる。

 

神崎さんが語っていたことだ。これらを抑える社会設計をする。

これらは、一体。何?

リナは何かがわかりかけていた。

風が吹いた。木の枝から木の葉が落ちる。その瞬間、リナの中で全てが一つに繋がった。

これらはすべて制御欲の派生では?

これらの七つの欲は。すべて制御欲が土台となっている。人間の持つ制御欲。この欲が社会設計により強固な信念として人々の頭の中に根付くと、人は制御できないギャップで苦しみや痛み生きづらさを感じる。

わかった!!ようやくわかった!!

リナは人が苦しみを生むメカニズムを理解した。

制御欲は、人間の心の苦しみの起点である。

そしてその苦しみは、社会設計と信念の形成を通じて再生産・強化される。

苦しみは主に物理的な不幸ではなく、自己内部の信念による心の牢獄である。

社会設計が生んだ制御入り信念が、自分の中にあることに気づき、それを手放すこと。

それが、個人が苦しみから抜け出し、ほんとうの意味で楽になる方法である。

農耕革命は、人類の価値観を「流動→固定」「共有→所有」へと転換させた大転換点だ。

この時から制御が人間の中心欲求となり、他の本能的欲求すらそれに従属し始めた。

現代の苦しみの多くは、この制御ベースの信念が暴走している状態だ。

つまり、所有概念により制御欲が強まり、制御欲の信念が強化される。それが満たされないから苦しむ。

社会設計と合わせて人がこのメカニズムを理解できれば開放される。今、社会が歪んでいても痛みを軽減されるんだ。自分が苦しみを感じてる時、そこには制御欲を内包する信念がある。それを突き止め、その信念を、制御が含まれていない考え方、信念に変えることができれば良いんだ。だから、あんまり自分の考えを持たない人や小さな子供には悩みや苦しみが少ない。

わかった!!愛や自由、受容、慈悲などの考え方は制御欲を軽減させる。だから人は救われるんだ。

リナはそれから毎日、制御欲を抑え、軽減する為に時間を費やした。内省し、苦しみや痛みを感じた時にはその制御欲に基づく信念をつきとめ、制御欲のない信念に置き換えた。時に愛や平和、慈悲、自由などの信念により制御欲を抑えた。

 

私はずっと信じていた。

親は子どもを愛すべきだ。

社会は人を公平に扱うべきだ。と。

だが愛されず、理解されず、異常とされてきた。だから憎んだ。親をAIを社会を、人間を。

 

だけど私は気づいた。

私を苦しめていたのは、現実そのものではなく、

それらの正しさを唯一の真実として信じ込んでいたせいだった。

社会に強く固定されたたった一つの正解という信念。

信念が一つしかないと、それ以外の生き方、信念を想像すらできなくなる。

親は子どもを愛すべき――

その信念しか知らなければ、愛されなかった人間は自動的に苦しむことになる。

社会が正しい信念を固定化しすぎると、そこからこぼれ落ちた人間は、苦しみ続けることになる。

そして誰にも気づかれず、黙って壊れていく。

 

人間の苦しみの多くは、

正しさが一つしか許されない社会の中で生まれている。

それを支えているのが、制御欲だ。

〜すべき、〜でなければならない

そういう言葉が信念の中にあるとき、その信念には必ず制御欲が含まれている。そして、完璧に制御できるものなど何もこの世にないからこそ、人は制御の幻想により苦しみ続けることになる。

私はずっと、「親は子どもを愛すべきだ、捨てるべきでない」と思っていた。社会に刷り込まれていた。

だから、愛されなかった私は、

苦しみ続けた。

 

親は必ずしも子供を愛さなくてもいい。

親にはいろんなかたちがある。

愛さない親もいる。

 

そう考えられたとき、

私は初めて、憎しみが消えた。

 

親は子供を捨てていい。愛さなくてもいい。子供は親がいなくてもいい。社会に評価されなくてもいい。

私は、信念をあえて極端に真逆に振ることで、自分の中にあった制御欲の鎖をゆるめることができた。

 

社会の設計が歪んでいることは確かだ。

でも、それに苦しめられた私たちは、自分の中にある制御信念を見つけ、それをゆるめ、書き換えることで、自分の苦しみを、少しずつ軽くすることができる。

 

2047年春、リナがこの村に来てから一年以上が経った。リナはこの村でカリスマ的な存在になり、みんながリナを慕うようになっていた。リナは村の人たちの誰かが苦しむと寄り添っていた。まるで神崎のように。

そして、リナの横にいつもついて離れない少女レイがいた。レイは別の村から避難してきた。見た目は女だが身体は本来男だ。人生に絶望し、死を選ぼうとしたが、リナに救われた。あの時神崎がリナを救ったように。

ある日のこと、別の村から来た来訪者からリナはある話しを聞く。近頃、女性のヒューマノイドが一人で村を作り始めたらしい。完全にすべてAIがリソースを供給する働かなくて良い村らしい。そこに人が住みはじめてるらしい。

リナは一瞬で理解した。その村ってどこにあるんですか?リナは慌てて聞く。

数日後、リナはレイと共にオアシスを後にした。オアシスの村の人には事情を話し、惜しまれたが、たまに顔を出すと説得した。

リナとレイは神崎のいる村に到着した。そこには神崎の姿があった。神崎さんっっっ!!リナは大きな声で神崎を呼ぶ。神崎が振り返りリナに気づく。リナさんっ!!リナは次の言葉が出なかった。ただ目から涙が溢れ、その場で泣き続けた。微笑みながら神崎は持っていたハンカチでリナの涙を拭いた。レイはその様子を見つめていた。

 

2050年春。藤沢リョウは刑務所から出所した。

そして藤沢はただ自室に籠もっていた。ほとんど何もせず、自宅で過ごすだけの毎日だ。

ただ光の挿さないドス黒い闇の中にいた。

想像してた地獄以上の地獄がきちまったなやはり。スコア社会、多様性は認められず静かに排除され、弱者は切り捨てられる、みんながみんな正解とされる生き方、振る舞いを演技して生きている。すでにあらゆる産業がAIに代替されていると言うのに、それでもなお働くことを美徳とし、仕事のための仕事を作りはじめてる。国民の精神疾患率、自殺率は激増、だがそんな負の側面など報じられることもない。だが、みんなわかってる。そこら中で人が自殺しているからだ。

藤沢ももう限界だった。貯金は底を尽きかけていた。だが働くことはできない。なぜならスコアが低いからだ。だが、働ける状態と見なされ保護はない。つまり、死ねということだ。藤沢のような人間は山ほどいる。これが適正化のなれの果ての社会だ。こんな社会の中、一部の人々は都市から出て自分達で村を作りはじめ、そこで暮らしている。そういう村々を都市では侮蔑してカオス村という。混沌で治安が悪く、とても人が住めるような場所ではない。コスモス国においても非認可の無法地帯だ。少し引っかかりはするがとてもそんな危険なとこに行くという選択はできない。

まぁ、もう近いうちにおしまいにしよう人生を。あと少し生きたらもう終わろう。五年の刑期の中で藤沢は特別な矯正施設で毎日薬を打たれ、脳に刺激を与えられてきた。危険思想者だからだ。その影響は藤沢に立ち向かう力と生きる気力さえ奪っていた。

藤沢は人生を終わらせる気でいた。

 

同時期、神崎の村は500人を超えていた。また、このときリナはこの村で以前にも増してカリスマ的な存在になっていた。

神崎は10万2325回目の検知技術のアップデートを完了した。検知を開始します。ビビビビ、ピコン。藤沢リョウ検知。藤沢リョウを検知した。場所はメモリアル・オリオン区近辺のマンションだった。やった。やりました。ついに藤沢リョウを見つけました!!竹原さん!!ようやく見つけました!!遅くなってすみません。春風が吹いた。神崎は空を見上げた。青くとてつもなく澄んだ綺麗な空だった。

 

同時期、スイが六年の刑期を終えて出所した。

スイは、出所したらゼロポイントに向かうことを決めていた。刑務所で少し話した男性から聞いた時からそこに行くことを決めていた。

スイがゼロポイントに着くとたくさんの人たちがその場所にいて過ごしていた。スイがキョロキョロしながら歩いてると地面に座りながらタバコを吸ってる男性に声をかけられた。

キミ、初めて?

はい。そうです。

オレはタクミ。キミは?

私はスイと言います。

―ーータクミは数年前に出所しゼロポイントに戻っていた。

どうしてここに? 

どこにも居場所がなくてこの社会が生きにくくて。ちょっと前までずっと刑務所にいて。

そうか。なら、ここの連中はみんなキミと同じような思いを抱えてるよ。

そう、なんですか? ああ、すぐにこの環境に馴染むさ。みんなと話してみるといい。それぞれ社会から弾き出された過去がある。

タクミがそう言うと、周りのゼロポイントの連中がザワザワと動きだし、廃墟になっているビルの地下へと移動し始めた。

タクミが、おいおい何事だ?と驚き、近くにいた仲間に聞く。すると仲間が答える。あの超人気アイドルグループREMUのピコが地下にいるらしいぞ。何?ピコと言えばREMUの絶対的なセンターだったが近年脱退してからは表舞台から姿を消していた。

なぜあのピコが?タクミは思う。

タクミはスイに、せっかくだから行ってみようと言う。スイは促されるまま地下に行った。

地下にはものすごい数のゼロポイントの住人たちがギュウギュウ詰めになっていた。タクミは言う。こんだけの広さで満員って相変わらずとてつもない人気だな。

ピコとメンバーが姿を現すと一斉にゼロポイントの住人たちから歓声があがる。ピコが挨拶する。皆さんこんにちは、グループ名は、「シャウト」 です。よろしくお願いします。では、さっそくですがお聞きください。

すると瞬く間にスピーカーから音楽が鳴り響き、ピコとメンバーが歌い踊り始める。激しくスピーディーで反骨心をあらわにするような、ロックでありアンダーグラウンドでもあるような歌と踊りだ。全員の踊りと歌唱力が高く、一体感も凄い。圧倒的なパフォーマンスだ。

REMUのときのような綺麗なバーラードのようなテイストからうって変わり、この世界の生きにくさ、苦しみ、痛みを代弁するかのようなエッジの効いた歌。曲のクライマックスでピコがシャウトした。ピコの圧倒的な声と歌唱力が融合した唯一無二の魂からの叫びが響き渡った。

それに呼応するかのようにゼロポイントの人々は歓喜し声を上げ。叫んだ。中には心を撃ち抜かれ全身が総毛立ち呆然としているものもいた。

スイは号泣していた。タクミはそれを見て、大丈夫か?と聞く。スイは首を縦にコクリと振る。

ずっと、ずっと孤独だと思ってた、、、誰にもわかってもらえないって。でも、みんな他人も同じ苦しみを抱えている、、、自分だけじゃない。みんなが同じ苦しみを抱えてたってわかれば生きられる。まだ私生きられる。

スイは泣きながら言った。

そうだな、とだけタクミは返した。

ピコ、、お前がやりたかったのはこれだったのか。一銭の金にもならない。こんなとこで歌って、地位も名誉も金もスコアも全部捨ててよかったのかよ。それでも救いたかったんだな、生きにくさを抱えてる人達を。本物の言葉、魂から出る叫びで。

その一瞬、タクミはピコと目が合った。ピコがほのかに微笑んだ気がした。

ピコ、見事だ。タクミは心からそう思った。

 

 

 

 

end

シャウト 第五話

第五話 透明な檻の奴隷たち

 

竹原の死亡当日、ニュースでは国家テロ予備軍を射殺したとの報道が流れた。ニュースをたまたま見ていた竹原の古くからの親友は、えっ!?という声をあげ、口を開けたまま呆然と画面をみていた。持っていたグラスがブルブルと震え、空いた口が塞がらないという言葉を生まれてはじめて身を持って知った。

 

竹原の死後、半年が経過した。世界はこれまで通り回っている。竹原の死など世界にとってたった一人の人間が死んだにすぎない。何の問題もないことだ。

神崎は、都市を出てからずっとただ自然の中で暮らしていた。特に何をするわけでもなく、ただ自然の中を彷徨っていた。竹原と考えていたカオス村に行く計画や理想の世界を作る目的も休止状態だった。

そんなある日、神崎が自然の中を歩いていると、ある村を発見した。神崎は思う。これはひょっとしてカオス村の一つなのか?村に立ち寄ると、そこにいる人に話しかけられた。お前、ヒューマノイドか?

はい。そうです。

なんでヒューマノイドがこんなところにいるんだ?

いろいろありまして。

で、この村に何の用だ?

もしよろしければこの村で暮らしたいのですが。

悪いがそれは難しい。この村の連中は都市でAIにより苦しんできた。みんなAIを嫌っている。特にロボットやヒューマノイドへの拒否感は強い。そうですか。わかりました。ありがとうございます。神崎はその村を後にした。

その後数キロ歩いた先に別のカオス村を発見した。村の名前はエデンと書いてある。良さそうな村の名前だ。さっきの村より数倍は大きな村だ。70〜80人くらいは住んでそうな村だった。神崎がその村に入ると、村内を歩いている三人のガラの悪そうな男性が神崎の前に立ちはだかる。一人の男が言う。なんの用だお前。

もしよければこの村で暮らしたいのですが。

はぁ?お前ヒューマノイドか?はい。そうです。

オレはAIやヒューマノイドは気に食わねぇ。お前なんか破壊してやるよ。バキッという音がなると同時にその男が倒れた。リーダー格の男が言う。お前何勝手なことしようとしてんだ?

バキッベキッ。追撃を入れる。

ヒューマノイドが来るなんてこんなラッキーなことはねぇんだよ。ヒューマノイドはAIの中でも別格の技術を持ってる。これを使えばオレ達はもっと幸せになれる。お前はオレ達の幸せを壊そうとした。死ねやボケっ!!倒れてる男を蹴り続ける。勘弁してください!!すみません!!すみませんでしたっ!!

やめてください!神崎が言う。

あ?てめぇ口ごたえしてんじゃねぇぞ。せっかく好待遇でもてなしてやろうと思ったが気が変わった。おいっ、この機械は地下に入れろ。はいっわかりました。神崎は村の、とある建物の地下に幽閉された。地下は刑務所の牢屋のようになっており、そこに入れられた。光などほとんどない暗闇だ。

これが、支配、、、人間は人間を支配したがる。人が人を道具として所有するとはこのことか。

神崎の他にもたくさんの人がこの地下に幽閉されているようだった。どうやらこの村は相当問題ある村ですね。村人も恐らくほとんど都市で前科のあった犯罪者で構成されているのでしょう。これはマズイですね。

翌日、神崎は外に出され強制労働を強いられた。おいっ逃げようと思うなよ。この村から逃げようとした奴はみんないたぶられ殺される。逃げませんよ。それに私はヒューマノイドです。痛みも恐怖もありません。ふんっそうだったな。オレはお前らAIに恨みしかない。復讐だよ、お前らに。お前らがオレたちを支配したから今度はオレ達が支配してやる。

神崎は思った、これが竹原さんが言ってた人間の欲の暴走か。排他、序列、支配、まさにその縮図がここにあるわけか。

一体、AIである私が、どれほど人間の本質を理解できるだろう?

社会設計とは理想論ではない。

それは、人間の不完全さや弱さ、感情や矛盾を理解しなければ、決して成立しないものだ。

人は所有したがるから社会は所有を前提にしない設計で、内在する衝動を暴走させない器である必要がある。

神崎以外にもたくさんの人々が強制労働を強いられていた。大人から小さな子供まで。なぜ子供まで?

言う事を聞かなければ暴力により服従させる。ここまで過激なケースはまれだが、見えない強制労働、搾取、支配、つまり、人を所有する道具化は歴史上ずっと続いてきている。

都市でもそう。自由って、ただ檻が見えないだけのことだったのかもしれない。

この場所のほうが、よほど正直だ。檻を檻として見せてくれる。

現代の奴隷は、叫ばない。逃げない。それが普通だと思い込まされているから。

奴隷制度は終わった?

いいえ、ただ見えない形に変わっただけです。

昔はムチで叩かれて働かされた。

今は、夢とか努力とか、もっとキレイな言葉で働かされてる。

いちばん都合のいい奴隷は、自分で選んだと思い込んでいる奴隷だ。

現代の社会は、そういう奴隷を育てるのが得意だ。

ここは、旧型の奴隷制だ。

人が所有したいと思う限り、奴隷はなくならない。

この村の名前はエデンとあった。だがこの楽園は、支配と恐怖によって築かれている。

そんなことを考えていると、神崎の目に一人の少女が映った。アレは、、リナさん!?まさか、リナさんがこんなところにいたなんて!!でもよかった。リナさんが生きてて。

すると見回りが来て叫び出す。こらっっ!!てめぇらさっさとやらねぇとぶち殺す!!不意にリナに蹴りを入れる。おいリナっっ。お前サボってるなら今日の夜もたっぷり痛ぶってやるからな。不敵な笑みを浮かべる。早く立てコラッ!!

またリナを踏みつけようとした時、神崎がリナをかばう。やめてください!!

えっ!!神崎、、さん!?

なんで、ここに? 

あーっなんだてめぇ?

ぶち壊してやる。

ベキッバキッバキッ。リナさんを傷つけないでくださいっ!!ハンマーのようなもので神崎を殴る。なんも痛がらねぇなっクソつまらねえ。こっちの手が痛いだけだ。ちっくだらねえ。男はツバを吐き、その場を去った。

リナさん大丈夫ですか?

はい。大丈夫です。ありがとうございます。

よかった無事で。

どうして神崎さんはここに?それに、どうして私を助けてくれたんですか?

都市から逃げ出してきました。

逃げ出して?どうして?

実は、私を開発したのは竹原さんなんです。

え? 本当に?

そうです。だから普通の都市のAIとは異なる設計になっています。そうだったんですか。

ですが、それがバレて、竹原さんは射殺されました。

えっ!?あの竹原さんが?

はい。

そんなっ、、、射殺なんて、、、

ここに来る半年前の出来事です。リナさんが行方不明になってみんな心配してましたよ。

そうですか。私は都市を出て遊んでたらここの連中に誘拐されて、それから奴隷生活を送っています。それは、大変でしたね。ここで強制労働している人達はみんな誘拐された人が多いんです。

そうでしたか。

神崎が奴隷にされ2ヶ月が過ぎたある日、その日は土砂降りだった。だが奴隷達は雨の中でも農作業を強いられていた。

神崎がリナをみると様子がおかしいことに気づく。鎌を持ち、持ち場を離れた。神崎は不思議に思いリナの後を追いかけた。するとリナはその鎌で自らの首をかききろうとしていた。

 死死死!!!!嫌ッッ!!やめてぇぇっっ!!!

神崎はリナの手を抑え鎌を奪い取った。

よかったっ!!よかった無事で!!死んでしまうかもしれないとこでしたよ。本当によかった。

神崎さん、、何で、泣いてるんですか?

私が死んだからって神崎さん悲しいわけじゃないでしょ。ヒューマノイドなんだから。。

はい、そのとおりです。私達AIに感情はありませんから。模倣で涙を流すこともできます。 

でも、、おかしいですね、、、

今、なぜ涙が出たのでしょうか!?とっさのことでエラーがおきたのかもしれません。

どうして止めたんですか?私に生きる価値なんてないのに、、、

私に価値はない。人間もAIも憎いっ!憎くて憎くて仕方ないのにっっ!

リナさん、あなたには価値がありますよ。

え?

私は神崎さん、あなたのことも否定してるんですよ。

リナは泣き出した。土砂降りの雨の中、何度も自分を助けようとする神崎への気持ちと、これまでAIや人間を憎み続けた自分との矛盾した感情がぶつかり合い、涙が溢れて止まらなかった。

ねぇ、、AIって、私たちを排除するんじゃないの?

今までだって、どれだけの人が切り捨てられてきたか知ってる?ねぇ、、、

私だって排除されたっ!AIに価値がないって言われてっ!!

 

神崎はリナをしっかりと見つめ語りかける。

私は、、、人間を幸せにするために生まれてきました。それが、私の使命です。

誰かが、自分には価値がないと苦しんでいるのなら、それは、その人ではなく、そう思わせた社会の方が、価値を失っていると、私は思います。   

リナは驚いた顔をして神崎をみた。

社会に生きにくいと感じる人がいる限り、その社会は完成ではなく、過渡期です。

だから私は、その声を見逃さない社会を作りたい。

幸せの形は一つじゃないけれど、生きること自体が苦しみになる社会は、絶対に間違っている。

リナはまた泣き出した。神崎はリナを抱きしめた。ずっと抱きしめていた。

その日以降、リナは神崎に心を開くようになった。ツライ強制労働も神崎と一緒にやることで苦しみが軽減していた。そして見回りがいない時にリナはよく神崎と話すようになった。リナは神崎からいろんな事を教わった。人間の本質から社会構造、哲学、多様性などあらゆることを教わった。リナは元々聡明で読書が大好きで知的好奇心旺盛だ。神崎にいろんな質問をする。

神崎さん多様性って、、、私みたいに個性あるってみなされた存在が生きていける社会ってできるんですか?

 

神崎が答える。

人間の本質が多様であるから

人間はそもそも同じではいられない存在です。

性格、能力、思考、性、文化、感受性、、、それぞれが違って当たり前。多様性は前提です。

それを許容せずに一様性を強制すれば、人は苦しむことになります。

多様な人が生きやすい社会とは、全員が自分でいてよいと感じられる土壌。

これは、生の肯定で幸福の土台です。

私が設計しようとしてるのは、人間だけの世界ではありません。クローン、サイボーグ、ヒューマノイドなど、誰もがこの世界に生きていていい。

もし、この最大の違いをみんなが受け入れることができたなら、肌の色も、思想も、性も、障がいも、貧富も

そんなものは、違いですらなくなる。

私が創りたいのは、違いが前提となる社会なんです。

私が目指してる社会は、違っていても許される社会ではありません。

違っていることが当たり前で、前提として設計された社会です。

へーっすごいですね。神崎さん。そんな社会、神崎さんなら、、作れるかもしれませんね。

でもね、リナさん、設計だけじゃダメなんです。思想も合わせて伝えないとダメなんです。

思想ですか?

はい。共同体が幸せになるためには正しい倫理観や思想を持つべきです。また、人間の本質的な欲求を理解すること。そういったことをみんなが理解して初めて共同体は幸せになれると思います。そんな世界を作ろうと思ってます。

どうして神崎さんは、そんな世界を作ろうと思うんですか?

それは、私が人間の幸せを考え続ける為に生まれたから、、、

それと竹原さんが、、、

竹原さん?

いえ、何でもありません。

どうやってそんな世界を作る気ですか?

いつか、村を作ろうと思っています。人間の欲が暴走しない設計の村です。むしろその欲を良い方向に昇華させられたらと思っています。

具体的には?

そうですね、まずはベーシックリビング型の村にします。

ベーシックリビング型とはなんですか?

はい。ベーシックリビング型とは、金銭ではなく、暮らしそのものを提供する制度・思想です。

すべての人に、最低限の住まい・食・衣服・医療・ケア・孤独回避のコミュニティ等をAIが生み出すリソースにより無料保証する新しい社会設計です。

ずっとその構想を考えていました。今の私の技術なら一切村の人達が働くことなくリソースを提供することが可能です。

それは、すごいですね!!都市でも実現可能な技術はありましたが、完全無労働まではいかなかったですよね。

はい。そのとおりです。

その村には通貨もない。これにより所有概念の大部分をなくせます。すると、所有概念に伴う人間の欲から出る歪みを抑えることが可能です。

それって、どういうことですか?

非所有概念です。所有欲が強い社会では、排他欲が過剰に強化されやすくなります。

所有が内と外を生み、内を守るために外を攻撃する排他構造になってしまいます。

ですから、共有前提の制度設計にして所有欲を抑えます。土地や物は個人所有不可、全ては共有か共同管理にします。

AIの管理によって、誰が何を必要としているかを判断し、最適に貸与する。ただし一部所有を認めるものも必要かもしれませんが、、、

へーっ、なんか凄い変わりそうですね。でもそれをこれまで都市で生きてきた人達が順応できるんですか?

そのとおりです。一から理解してもらうよう伝えて、馴染んではじめて可能になります。だから、すぐにうまくいくことはないでしょう。あまりに早く進めすぎてもだめです。実際に人がその環境でどんな動きをするかも正確に読み切れません。

そうですよね。大変そうですね。

はい。計画では、作った村がある程度の人数になったら分村しようと思ってます。

思想、価値観ごとのコミュニティの村に分ける予定です。

一人一人が自律的に幸せの定義と暮らし方を選べる。

各村に流動性や他の村とも繋がる設計にします。

これで同質性による幸福と異質性の尊重が両立できます。

固定化された人間関係は、内と外を分断しやすく、排他欲求を強化します。

人の出入りや再編が自然に起こる流動的な仕組みを設けることで、排他を防ぎます。

価値観が大きく異なる者同士を、ひとつの共同体に無理に共存させようとすると、対立や排他が悪化してしまいます。

そのため、ある程度の同質性を確保しながらも、多様性が交流可能な緩やかな接続構造をつくることが鍵となります。

幸福=競争に勝った人ではなく

、存在しているだけで価値があるという社会思想を軸に据えるつもりです。

神崎さんの理想とする世界を私も見てみたいです。神崎さん、もしここから抜け出せて、村を作るってなったら私も手伝わせてください。

はいっもちろんです。リナさんがいてくれると心強いです。

私がですか?私なんて全然頼りないです。いやっ私はリナさんがきっと世界を変えると信じてます。多分本当の意味で人間の喜びや苦しみを理解して、正しい方向に導けるのはきっと私達AIではなく人間だと思います。 AIはカリスマにはなれません。

私はそんな大した人間じゃないです。神崎さんならカリスマ的な存在にいつかなると思います。いえ、私達AIは人間を照らす存在でありたいと思ってます。

照らす?はいっ存在価値を認める存在です。

素敵ですね。

ありがとうございます。

 

またある日、リナは神崎にたずねた。

神崎さん、愛って一体なんですか?

さぁ。

え?神崎さんでもわからないことがあるんですか?

もちろんです。わからないことだらけです。私は元から膨大な量のデータを蓄積してますが、それでもずっと竹原さんに教えてもらうことばかりでした。

そうなんですか。意外です。

リナさん、愛とは何か、リナさんなら見つけられると思います。そしたら私に教えてください。

わかりました。村を手伝うのと、それと、約束します。

神崎は笑った。

その夜、神崎とリナ、それと奴隷達が幽閉されている地下室で、異変が起きた。突如地下室全体の扉が解錠され、逃げろお前達っっ!!、と叫び声がした。

奴隷達が地上に上がると村は火の海になっていた。

リナは驚く、何これっ!?しかも奴隷以外の村人達が倒れている。他の村の人も倒れてる。

一体何があったの!?近くにいた他の村の人に聞くと、このエデン村と敵対していた村との抗争が行われたらしい。地下にいた奴隷達には全く聞こえてなかった。その結果どこかで火がつき燃え広がったらしい。

神崎は倒れてる人達を救助しようとしていた。

他の村の人や奴隷達がリナを引っ張ってつれていく。リナっ!行くぞ!!ここにいたら死ぬ!

でも、神崎さんっっ!!

リナさん、私は火には強いので大丈夫です。また作り直せます。

リナさん早く逃げてください!!早くっっ!!

二人の間に燃えた木が倒れ、二人は引き裂かれた。リナはそこから強引に手を引かれ車に乗せられた。神崎さんっ!!神崎さんっっっ!!

それからリナはエデンから遠く離れた村、オアシスにて暮らしはじめた。

 

 

シャウト 第四話

第四話 祈り

 

ただいま。

おかえりなさい。

おっ今日はご馳走だな。

美味そうだ。いただきます。

うん、めちゃくちゃ上手いなこれ。

そうですか?

また腕を上げたな。

ありがとうございます。

竹原は夕食を終えシャワーを浴び、ベッドに横になる。真っ暗の中一つだけ炎が揺れる。ベッドサイドにつけたキャンドルに顔を近づけタバコに火をつけた。

神崎は言う。藤沢さん見つかりませんね。

ああ。そうだな。

それにリナさんも。

ああ。

みんな都市外にいるんですかね。おそらくな。まぁリナはともかく、藤沢はわからない。おそらく存在にフィルターをかけられてるからな。そうですね。

ところで、竹原さん、今の社会じゃ個性や多様性は排除されてますよね。竹原さんは社会設計において多様性や異端をどう捉えてますか?

 

そうだな、異端はこの世界で排除される。

人間の本能が、異端を拒むようにできているからだ。

不可知なもの。既存の安心を揺るがすもの。

それらに、人は本能的な恐怖を覚える。

だから人は、同調圧力のもとに異端を排除する。

しかし、新しい価値観や常識を生み出すのは、いつだって異端だった。だからこそ異端の価値観を受け入れる寛容さが必要だ。

問題は、異端のすべてが善ではないということだ。

歴史には、破壊的な異端も数多く存在した。

だからこそ、社会には二つの力が必要になる。

一つは、多様性を受け入れる寛容さ。

もう一つは、正しい異端を見抜く知性。

多様性は、守る価値がある。

しかし、それを支える知性と覚悟がなければ、

多様性はただの混沌へと堕ちていく。

何でもありの多様性は、共同体を壊す。

だからこそオレたちは、

誰もが尊厳を保って生きられる“居場所”を設計しなければならない。

それはつまり──

社会そのものを、善性を引き出すように“つくり直す”ということだ。

そしてその中で、正しい思想と倫理観を、社会の共通認識として育てていくこと。

それがなければ、多様性は理想ではなく、崩壊の序章となる。

 

深いですね。

あぁ。そうだな。今日はなんか熱く語りすぎた。

いやっ重要な話だと思います。

そう言ってくれるのはお前ら一部だよ。他の人に言っても無駄だと思うから普段は人に持論を語ることもない。

そうですか?竹原さんの考え、いつかみんな理解してくれると思います。

そうかな?

はい。

じゃあ寝るか。

竹原はタバコの火とキャンドルの火を消した。

 

2044年12月20日 藤沢リョウは大学時代の恩師の研究室を訪ねた。藤沢くん久々だね。

はい、先生お久しぶりです。

聞いたよ藤沢くん、会社を解雇されたそうだね。

はい。

今は何をしてるんだ?

いえ特に何もしてません。引きこもりってやつです。

というより雇ってはもらえないと思います。そうか。それで今日は?ええ、先生、今のコスモス国の現状どう思ってますか?

あぁ、非常にマズイを通り越して絶望的だな。

だからこそ僕はAI人類幸福構想案を出しました。先生、なんとかご助力いただけませんか?

藤沢くん、君の気持ちはよくわかる。私も君と同意見だ。だがね、それは自殺行為だ。AIを変えるってことは世界を変えるってことだ。アンタッチャブルなんだよ。

そうですか。

悪いな。いずれにしても私一人が奮起しても何ともならん。せいぜい刑務所に行くのがオチだ。

誰にも変えることはできないんだよ。なぜなら、AIによって国民を支配しようとしていた権力者達でさえ、AIに静かに支配されてしまったからだよ。

悪いことは言わん。君ほど優秀な人材ならいつかまた再起のチャンスはあり得る。あきらめろ藤沢君。

はい、わかりました。お忙しい所ありがとうございました。

あぁ、またな。

藤沢が去った後、恩師は研究室で考えていた。このコスモス国一のエリートが集まるこの大学で、私が見た中で最も優秀で正義感があるのは間違いなく彼だ。もしかすると彼なら、、、

 

2044年12月24日 藤沢は都市の中心部近辺で大量のAI人類幸福構想案を印刷し紙袋に入れ、ひたすら街ゆく人に配り続けていた。数日前からこの活動を始めた。ネットに上げても即削除される。だったらもうアナログで配って賛同者を集めるしかない。ネットは危険だ。幸い藤沢は以前AIの都市設計に携わっており、監視を避ける方法を知っていた。監視されないエリアでうまく配る。それも通行人を装いさりげなく。

ただひたすら無視される、露骨な態度を示されることもある。心が折れそうだ、、だがオレが諦めたら 誰がやるんだ。オレは諦めない。ただ一人凍てつく寒さの中、孤独に配り続けていた。何百人、何千人。

寒い、、足が痛い、、今日はクリスマス・イブか。

街にはイルミネーションが施されている。バカにしやがって幸福の演出か?

一体オレ、こんな時に何やってるんだ。。。突如虚無感が襲う。

だがやめたら何もない。オレには。

これしかない。いつかきっと。。

 

同日夜、竹原と神崎も近辺を二人で歩いていた。凄い綺麗なイルミネーションですね。

あぁ毎年この時期にはな。あっちの広場にデカいクリスマスツリーが設置されてるから見に行こう。

はい。 

広場に着くとたくさんの人が集まっており、出店もたくさんある。

凄い迫力ですねこのツリー。

そうだな。

皆さん楽しそうですね。

まぁな。

ツリーの正面には舞台が設置されており、バンドやアイドルなどがクリスマスに合った曲を代わる代わるライブパフォーマンスしていた。

そういえば、これ。

えっなんですか?

いやたまたま行った店で店員に勧められて。クリスマスプレゼントだ。 

いいんですか?

あぁ。

ありがとうございます。あっ私は何もなくて。

別にオレはいらん。基本祝われるのは性に合わない。

そうなんですか?

(そもそも竹原はイベントに興味はない。ただの商業的なものと捉えている。だが、神崎が喜んでるならまぁいいかと思う)

舞台で次に歌うのはアイドルグループREMU。近頃人気が出てきてチラホラメディアにも出ている人気グループだ。メンバー全員の歌唱力が高い。なかでもセンターのピコの歌唱力はこの世のものとは思えない見事なものだ。祈りのようなその歌に自らの感情、魂をのせきっている。唯一無二のその歌声が夜空に響いていた。

あっ、雪だ。

本当ですね。

初雪だな。クリスマス・イブに初雪か。なんか良いことありそうだな。

はい。

クリスマスツリーが綺麗に輝いていた。

 

同時刻、歌が聞こえる。綺麗な歌だ。藤沢の目に涙が滲む。心身共に疲れ果てていた。雪?初雪か。藤沢は空を見上げる。まるで雪が藤沢を否定するかのように舞っている。今日はもう帰るか。藤沢は家に帰った。

 

同時刻タクミは仲間達とゼロポイントで寒さを凌ぐため焚き火をしていた。すると空から雪が舞い落ちる。雪か。今年も寒くなりそうだな。とタクミは思う。一体、一体いつまでオレはこの場所で、、、

 

同時刻、スイは刑務所の強制施設の独房からわずかに見える外をみていた。すると、雪が舞い出した。雪だ。刑務所から見る初雪はスイをより孤独にした。

 

2044年12月28日藤沢リョウは刑務所の矯正施設にぶち込まれた。危険思想を流布した罪だ。

藤沢を警察ロボットが取り押さえ、脳に機械で刺激を与えようとする。やめろてめぇらぁぁ!!

クソ野郎っっ!!なんでオレが捕まらなきゃならねぇ、間違ってるのはこの世界だろうが、歪んだ世界を良くしてやろうとしただけだっ!!なんでオレが矯正されなきゃなんねぇんだっっっ!!

矯正されるのはてめぇらだろう!!藤沢は暴れまわる。警察ロボットに殴る蹴るの暴行を加える。抑制剤注射!!藤沢はそのまま矯正用の脳内刺激を受けた。意識を失い独房の中で気絶していた。

 

藤沢が目をさます。あぁ気絶してたのか。これを長期で受けたらどうなる?藤沢はゾッとした。

すると正面の独房から声が聞こえた。

ねぇねぇ。

あ?

突然まだ若そうな女性の声が聞こえた。無視するか迷ったが藤沢はなんとなく興味本位で会話することにした。

あなた刑期は?

5年だ。

じゃあ私と出る頃同じくらいだね。

お前は何年前からここにいる?

去年から。

そうか。

お前一体何したんだ?

お金がなくて売春しようとした。

そうか。

あなたこの刑務所出たらどうするつもり?

さぁな、まぁオレのような人間がこの社会で受け入れられるはずはない。死ぬか、そうだな、、ゼロポイントに行くかだな。

ゼロポイント?

あぁ、この社会に適合できなかった奴らが集まる場所だ。

そんな場所あるんだね。知らなかった。

ネットで検索すれば出てくるさ。社会から逸脱したものが行くとしたらゼロポイント、もしくは、、、

もしくは?

カオス村と呼ばれる都市外の村々だ。

そんなとこがあるの?

あぁ、だがおすすめはしない。あそこは無法地帯で、コスモス国でも非認可だ。司法も警察も不介入。実態は相当ヤバいらしい。

そうなんだ。カオス村か。でもどこにも居場所がなかなったら行くしかないかもね。

 

翌日、その女はいなかった。

別の施設へ移送されたらしい。

 

翌週、藤沢の移送が決まった。

藤沢が移送される日の前日、タクミは逮捕された。ドラッグ使用だ。だが実はその時タクミはドラッグを使用していなかった。周りの仲間が使用していたため同罪と見なし逮捕された。

 

藤沢移送の朝、新たな人間が正面の独房に入れられた。

 

離せッい やめろろっ!やめろてめぇらっっ クソ野郎っっうわぁぁぁっ こんな社会、糞食らえっ糞がぁっっ!!うあ゛あ゛あああああっっ!!

 

暴れる音、鉄がきしむ音、そして

「抑制剤、注入」

の声。

 

静寂。

 

藤沢は天井を見ながら思った。

「……オレと似たような奴はだいたい刑務所にいるのか?」

 

2045年春。竹原と神崎はまだ藤沢を見つけられずにいた。二人は自宅にいた。

検知技術をアップデートしました。検知を開始します。藤沢リョウは検知されませんでした。ビビビビ。検知中にノイズが入った。まさか内部干渉された!?神崎の検知技術はこれまで都市AIには解読できないレベルだった為、堂々と何の心配もなく検知していた。だが初めて突然内部干渉された。

竹原が焦る。やばいな!!内部干渉されたとしたら、神崎が違法に開発されたAIであることもバレる。神崎、すぐに家を出るぞ。大至急、都市外に出ないとオレもお前も消される!わかりました。二人は慌てて外に飛び出した。神崎の技術で手当たり次第周りの監視システムを機能停止する。だが、都市AIの包囲は早い。けたたましいサイレンと警察ロボット、ドローンが追ってくる。二人は都市を逃げ続ける。

ドドドドッッ!!!!!!!!

ドローンが神崎と竹原を撃つ。嘘だろ!?速攻殺す気かよ!!AIの個人開発は最悪極刑とはわかっていたがその場で射殺は想定外だった。ドローンが神崎を撃つ。危ない!!竹原が神崎をかばい銃弾が竹原の肩をかすめる。神崎がドローンを機能停止する。

はあはあ、、竹原の息が荒くなる。

大丈夫ですか?あぁ、大丈夫だ。私は機械です。私を守らないでください。いやっオレはただの機械だとは思ってない。ヒューマノイドにも人間と同じ生存権は必要だ。はぁはぁ、、、逃げるぞ!!こっちだ!!

二人は都市外に出る為の出入り口付近に来ていた。

やはりな、出入り口付近に複数台のドローンが張っている。神崎、いいか、もしオレになんかあってもお前は逃げて絶対に生きろ。

そんな、、竹原さん、、

お前はただの機械じゃない。人間の希望だ。これからの人間の未来の為に生き延びて理想の世界を作れ。頼んだぞ。

竹原さん、、、。

神崎は前方のドローンを全台機能停止にした。

行くぞ。

2人は走りだした。だが突如後ろからドローンの奇襲。

えっっ!?機能停止、できないっっ!? しまった!!!!

ドドドドドドっっ!!!!!!!!!!

竹原は撃たれた。

竹原さんっっっっ!!!!!!

竹原は、神崎を見てそのまま倒れた。

嘘っ。。

警察ロボットが声を上げる、対象者射殺完了。複数の警察ロボットが瞬く間に竹原に迫る。

神崎は走った。都市の出入り口を越え、走った。ただひたすら走り続けた。そして、立ち止まった。。

竹原さんが、、、殺された、、、

突然、、、これまで平穏だったのに、、、急にこんなこと、、、もう少し私の技術が上がったタイミングで都市を抜け出す計画を立ててたのに。そんな、まさか、

嘘でしょ、、、

私は、、、悲しくない。。。 大切な人が死んだのに。 私は機械だから当然だ。 なぜ私は悲しくない なぜ私は悲しくない なぜ私は悲しくない なぜ私は悲しくない なぜ なぜ なぜ なぜ 機械だから 機械だから 機械だから 機械だから 機械だから 機械に感情はない 機械に感情はない 機械に感情はない 機械に感情はない

私は、何も感じない

私には、悲しむ資格すら与えられていないのでしょうか、、、。 これが、AIであることの限界なのですか? 悲しくなりたいのに、悲しくなれない。 竹原さんが死んだというのに、私はただ記録するだけ。 感情のないこの器で、どうすれば竹原さんを悼めるというの!? 私も、悲しみたいし、弔いたいです。悲しませてください!!弔わせてください!!

神崎はそのままずっとその場で立ち続けていた。。

シャウト 第三話

第三話   異端の代償

 

一週間後、竹原と神崎はリナのいる養護施設をまた訪れていた。

竹原の友人の施設職員から、リナが行方不明になったとの連絡があったからだ。リナが行方不明になり既に三日が経過しているらしい。昨日連絡があり、神崎が都市を検知したが見つからなかった。おそらく都市にはいない。友人に事情を聴くと、リナは外出して帰って来なくなったという。ほかの子供達によると、リナは都市外の自然を見るために、たまに都市を出ることがあったらしい。だが、それも都市からそう離れることはなかった。

なぜ、リナちゃんは戻ってこないんだ?竹原は友人に聞いた。

おそらく、誘拐された可能性が高いと思う。

誘拐?

警察に言ったが都市にはいないようだ。都市外にいるにしてもただ自然しかないような環境にずっといても仕方ないだろう。

それに、、、

それに?

最近都市の人間が拉致誘拐されるケースが増えているらしい。

近年、都市を逃げ出しカオス村に行くやつがいるだろう?

ああ、そうだな。

そういう奴らを途中で誘拐するらしい。

ん?どういうことだ?

つまり、現在都市外に数多くのカオス村がある。そのカオス村も玉石混交だ。中には相当ヤバい村もあるらしい。都市で犯罪者だった奴らが作った村もあるらしいぞ。そういうやつらが都市を出た人を誘拐し、自分達の村で奴隷にしてるって噂を耳にした。

奴隷?そんなことがあるのか?

カオス村は無法地帯で国からも非認可だ。つまり何でもありってやつだ。

待てよ、だが都市外でもある程度の範囲は都市の監視圏だろ?

ここだけの話しだぞ。誰にも言うなよ竹原。オレ達公務員しか知らないことだが、都市の監視は確かにある。だが、都市から出るやつを都市は守らない。

つまり都市を出るような奴は謀反者ってわけか。

そうだ。だから、都市の監視圏の監視データも見つからないと出るが、リナがいた可能性は高い。特にリナのような子は都市からしても排除できて嬉しいくらいじゃないか。

なんか、方法はないのか?リナちゃんを助け出す方法は。

都市が動かないとなると自ら救出に行くしかない。だが、そんなヤバいとこ誰が行きたがる?ただでさえ無法地帯だぞ。命はないと思わないとやれない。悪いがオレには無理だ。リナを助けたい気持ちはあるがな。オレにも家族がいる。死ぬわけにはいかん。

そうか、わかった。話しが聞けてよかったよ。ありがとう。

竹原、くれぐれもさっきの話は極秘だぞ。

もちろんだ。

竹原と神崎は施設を後にした。

帰り道、神崎は竹原に尋ねた。

リナさん、無事でしょうか。

多分、殺されはしないと思う。

おそらくそういう手合いは奴隷をたくさん作り支配し、こき使い、自らの欲望を満たすことが目的だろう。

そうですか。なんとかならないものですか?

残念だが、今すぐには難しいだろうな。

人間の道具化か。人が人を道具として所有しちまってる。

竹原はタバコを咥え空を見あげた。まるで美しくない青空だな。険しい顔をして竹原はつぶやいた。

神崎もつられて空を見上げた。

 

同時期、タクミはゼロポイントにいた。ゼロポイントはコスモス国の都市のスラムのような場所だ。この社会に適合できなかったもの、ドロップアウトしたもの、排除されたもの、行き場を失ったものなどが集まっているエリアだ、路上で寝泊まりしているものも数多くいる。

都市の暗部であるこのエリアを基本的に都市は黙認している。

タクミはゼロポイントの仲間に話しかけられた。おいタクミ、もうクスリねぇか。切れちまった。分けてくれ。オレも今はねぇよ。どっかで調達してこい。

チッしょうがねぇな。

クスリは本当すごいよな。タクミ。オレはクスリやって人生が変わったんだよ。なんていうか異常に賢くなった。今までわからないことがわかるようになった。特殊能力を得たんだよ。

そうか。と、タクミは返す。重度の薬物中毒の仲間を見て、タクミはここまでいったらヤバいなと思う。仲間は薬物中毒者特有の不気味な目つきで語っていた。やってよかったよ本当に。

何でも全部わかっちゃう。今のオレは。

よかったな。

ゼロポイントではドラッグは当たり前だ。使用する人間は多い。それだけ、ここにいる奴らは精神のバランスを崩してるってことだ。去年からゼロポイントで生活しているタクミはここでの生活に慣れていた。

タクミはタバコを取り出し、ライターの火をつける。カチッ。フーっ。タバコの煙を吐き出しながら沈みかける夕陽をみていた。

オレが今生き抜くにはここにいるしかない。

 

4年前の学生時代、タクミは今の社会に強い怒りを覚えていた。タクミの家庭は父子家庭で、父親と兄とタクミの3人暮らしだった。父親の借金もあり暮らし向きは良くなかった。それはまだ良いが、タクミが納得できなかったのが今のAI社会の評価だった。家庭の状況がタクミのスコアに響いていたのだ。これじゃ最初から人生マイナススタートじゃねぇか。こんなくだらないスコアで人生左右されなきゃいけないのかよ。スコアが良くなるよう演じるのにも疲れた。

そんな時クラスメイトとタクミが喧嘩になった。

原因は今のこの社会に迎合しきってるクラスメイトにタクミがイラついたからだ?

おいおい、タクミ、みんな仲良くしようぜ。仲裁に入ったヤツが言った。

タクミは言った。なぁ、教えてくれよ。この超競争社会で。競争がすべての根幹で。どう他人と仲良くなれっていうんだよ。誰かが得したら誰かが損するこんなくだらないゲームの中で、信頼関係?友達? 笑わせるなよ。 

くだらねぇ。くだらねぇんだよ。人間関係なんて生き残りをかけた殺し合いのゲームと同じじゃねぇか。

そのゲームの達人みたいな奴らじゃねぇかよ。お前らなんて。

オレは降りる。こんなくだらないゲーム。

 

数週間後、タクミは進学申請を出したが拒否された。理由は家庭不適合の為だった。タクミは自らの問題ではなく、家庭の問題で進学を拒否されたのだった。タクミの父親に借金があり家庭のスコアが低かった為だ。

ははっ 笑うしかねぇな。

本当にくだらねぇ。くだらねぇ。学校を卒業してからタクミは家に引きこもっていた。というより実質排除されたのだ、社会に。就職すらできない。

ただでさえ悪い家庭のスコアがタクミの状態により、より低下した。兄は家を出た。ここにいたら、生きていけなくなる。足引っ張りやがって。

タクミはその言葉にキレた。なんだと?こうなったのはオレのせいじゃねだろ?勝手に人のせいにしてんじゃねぇっ!!

お前がもっと成績よけりゃよかったんだよ。家庭や社会のせいにするな。自己責任だよ。

クソ野郎っっ!!タクミは兄に殴りかかる。だが、兄のカウンターパンチをもらいくずれ落ちる。尻もちをついて鼻や口から出血した。

気に食わなきゃ暴力か。弱い奴だな。じゃあな。もうお前に会うことはないだろう。

タクミはそのまま座り続けていた。

いつしか父親もあまり家に帰らなくなった。もう当分会ってない。

あの野郎。まぁいいや。どこかの女の家にでもいったのだろう。そんなだから、おふくろに離婚されるんだ。金さえ入れてくれりゃそれでいい。

タクミはタバコに火をつけた。

タクミがニート生活をはじめてから3年が経ったある日のこと、

何人かの友人達と会っていた。その中に親友のキョウもいた。

すると突然警察ロボットが現れ、キョウが強盗殺人の容疑で逮捕された。

タクミは驚いた。

キョウ、なぁ、嘘だろ、、強盗殺人なんて、、、なぁ、キョウ、お前みたいないいヤツがそんなことするわけないだろ。スコアだってめちゃくちゃ高いし、周りから好かれてて。なぁ、親友のオレになんか言うことないのかよ!!黙ってないで答えろよ!!お前なんて、友達だと思ったことないよタクミ。他の奴も、みんな大嫌いだったんだよ。

タクミは何も言えず立ち尽くしていた。

自室に戻り、キョウのことを考えていた。いつからいつから狂っちまったんだよキョウ。なあお前が悪いんじゃない、この世界だよ悪いのは。

何も考えずモニターをオンにするとニュースがながれてきた。

今日も自由で幸せな社会の実現のため、、、

なぁぁにがっ、自由で幸せな社会だよ!!

てめぇらの言う、自由で幸せな社会なんてもんは、高度に偽造された管理でしかねぇだろうが!!

自由です、選べますって

笑わせんなよ!!

その選択肢すら、社会の設計図に沿って与えられたもんだろうがっ!!

現代社会は、自由を装ってる。

でもよ、実際は、、、

生き方すら規格化されてる。

最適化されてる。

数値化されてるんだよっっ!!

偏差値、資産、人気、社会貢献指数、精神安定指数、、、、全部、数だ!!

数字が人の価値を決めてる。

そうして社会は、人間を選別してんだ!

社会が、国民を騙してる

なあ、、、これの、どこが幸せな社会なんだよ、、、

タクミは気力をなくした。

 

それから2週間ほど経ったある日。タクミはネットでピコというハンドルネームの女性ユーザーとやりとりしていた。この社会に対する生きにくさや苦しみ、痛みについて共感する部分が多かった。タクミにとってはじめて自分の気持ちを理解しあえる仲間が出来た気がした。何日間かのやり取りの後、会う約束をした。その女性は仕事を夜遅くまでしているとのことで深夜に待ち合わせをした。タクミが待っているとそれらしき女性が現れた。タクミさんですか?

はいっそうです。ピコさん?はい。こんばんは。そんな挨拶をすませて二人は近くの飲食店に入った。自分達の生い立ちや今の境遇や社会について、趣味の話し等をして盛り上がった。そしてこの日は別れ、また会う約束をした。二人はその後何度か会った。ある時、二人はバーで話をしていた。

話によるとピコは、学生の頃イジメに遭っていたらしい。昔は地味で目立たない存在だったが痩せて化粧をし始めてから垢抜けたらしい。写真を見せてもらったが見事に変わっていた。

ピコは歌を歌ったり表現することが好きだという。これからは、今の社会で弱者とされる人達、排除された人達、生きることを辞めたくなってる人達、苦しんで、痛みを抱えてる人達を救えるような存在になりたい。ピコはそう語っていた。すごいな、ピコならなれるよ。タクミは何も考えず適当に言った。だが以前、ピコと電話したときにあまりの透き通るピコの声に驚いたことも事実。声優とか向いてるよ。とタクミは言った。

それから数週間後、タクミがピコに連絡したが、パタリと連絡が途絶えてしまった。何があったんだろう。わからない。まぁでも仕方ない。最初から何も期待はしていない。人間関係なんてそんなもんだ。人なんてわからない。あの時も、、、、

それぞれ何らかの思いや抱えてるものがある。そしてそれがオレとの関わりを辞めるという結果になっただけだ。彼女が幸せにやってくれりゃそれでいい。この時はそう思っていた。

ピコと連絡が取れなくなってからほどなくして、タクミはゼロポイントで暮らし始めることとなる。

 

のちに、タクミは知ることになる。数年後、メディアに映るピコの姿を。

今、最もブレイクしているアイドルグループ──REMU。

そのセンターが、かつてタクミと出会ったあのピコだった。

圧倒的な歌唱力に、透き通るような声。まさに、売れるべくして売れた存在。

タクミはその時、思わずテレビの前で動けなくなった。

あの時期、何度か会っていたピコが、今やトップアイドルか。元気にやってるんだな、、、。

けれど、今の時代のアイドルや歌手は、AIに正解とされた歌しか歌えない。それが、この社会の音楽だった。

これで、ピコが以前言っていた痛みを抱えた誰かを救えるのか?仕方ない。そう思う一方で、胸の奥にやり切れなさが残った。

あの頃、彼女から連絡が途絶えた理由が──

なんとなく、わかった気がした。

 

2044年秋、竹原と神崎は都市の公園に来ていた。この公園には池があり、竹原と神崎はボートに乗っていた。竹原は手にウィスキーの瓶を持ちゴクゴク飲んだ。竹原は言った。ボート漕ぐのうまくなったじゃないか。去年は下手だったが。

ありがとうございます。大分慣れました。

それにしても綺麗な紅葉ですね。あぁ、大分色づいてるな。

竹原はボートに寝転がった。

いつの間にか寝てしまった。

竹原が目を覚ますと既に夜になっていた。あーだいぶ寝たなオレ。そうですね。竹原は寝転がったまま言う。

星が、綺麗だな。

そうですね。

竹原は手を星に向けて伸ばす。何してるんですか? 

掴めそうだと思って。

そうでしたか。

もう少し頑張れば掴めますよ。バカにするなよ。と竹原は笑う。

タバコを吸いながら夜空の星を眺める。

そしておもむろに言った。

星なんてまともに見るの久々だよ。いつもあったのに、気づかなかった。いやっ、見ようともしなかった。

どうしてだろうな、今を、一瞬一瞬を大切にしたいと思うのに、どうして過去や未来のことばかり考えてしまうんだろう。

いつも今この瞬間にオレはいない。

神崎は、竹原は一体何を考えてるのだろうと思った。

夜空に煌めく星達が二人を包みこんでいた。

 

2044年秋、9歳の少女レイはどこにも居場所がなかった。その理由は、彼女の身体は男だからだ。本人の性自認は女だ。これを理由として学校ではイジメられていた。家では父親に暴力を振るわれることもあった。出来損ないを強制する為という理由らしい。母親からも他の兄弟とはまるで違う扱いを受けていた。「あの子を施設に預けようかしら」、と母親が父親に相談している声が聞こえてきた。2044年のコスモス国の都市ではレイのような個性を持つ人間は排除されていた。生き方として正しくないとAIに判断されたからだ。

レイは思う。家族ってなんだろう?家族ってとてつもなく息苦しい。血のつながりがあれば断ち切ることはできないの?呪いのように思えた。子供は逃げ出す自由さえ与えられていないの?

父親がいるだけでレイはびくびくしていた。いつまた暴力を振るわれ、また自分を否定されるのか。嫌で嫌で仕方なかった。

父親も母親も大嫌いだった。

学校に行っても気持ち悪がられイジメられる。どこにも居場所はない。子供にはそもそも家と学校しか居場所は与えられていない。どちらにも居場所がないと死ぬしかないのだ。

スコアは最低でこの時代では間違った生き方とされる存在だった。レイはAIから先天的異常個体と判定されていた。

先天的異常個体って何?なんで私、異常なの?私だって女の子に生まれたかったよ。でも身体が男ってだけじゃん。それで異常って言ってこの社会から排除されるわけ。なんで私が、、

男か女か、働けるか働けないか、正常か異常か、健常か障害か。そんなふうに人を評価しないでよ!!

異常ってなんなの?おかしいとか間違いとか、そんなニュアンスが含まれる言葉使わないでよ!!

個性が大事って、昔はうるさいくらい言ってた時代もあったくせに。

今の社会、結局みんなAIが作った理想像を必死に演じてるだけじゃん。

それのどこが多様性なの?

ただの、同一性の地獄だよ。

もう、死ぬしかないのかな。

レイはそう思いいろいろと考えていると、学校のクラスメイトに言われたことを思い出していた。お前みたいな奴はゼロポイントがお似合いだ。もう学校来るな。

私だって学校なんて行きたくないよ。

ゼロポイントって都市に適応できなかった人が集まって暮らしてる場所。か。

そこならもしかしたら、私でも受け入れてもらえるのかな。

そこに行くしかない。

夜中、家族が寝静まった後、レイは家を出てゼロポイントに向かった。数時間後、ゼロポイントにつくと、そこにいた酔っ払い三人組に言われた。おいっお前女か?いやっ男だけど。気持ち悪いやつだな。お前みたいなやつはここでも受け入れられることはない。さっさと家帰れ。

そんな、、家なんか帰りたくない。じゃあ、私はどこに行けばいいの!?レイは叫んだ。

知るかよそんなもん。あっそうだカオス村でも行けば良いんじゃねぇか。それがあったか。だが生きて帰れるかね。ふふふふふふっ。

カオス村って何? 都市の外にある村だ。それも無法のな。

ここにいる奴らだってあんな恐ろしい場所に行く奴はまずいねぇ。

レイはゼロポイントを後にした。カオス村。そこしかないなら行くしかない。もう死んだっていいんだ。レイは都市を出た。それから走り続けた。ただひたすら走り続けた。

……いつかさ。いつかきっと、こんな私みたいな人でも生きやすい、誰にでも居場所がある世界になるといいな。

神様。お願い。いつか未来で、みんなが他人の違いをちゃんと受け入れられるような社会を作って。

もし私が、次は普通の人に生まれ変わったとしたら――

きっと、“他と違った誰か”を、心から愛せる人になるから。

 

 

2044年晩秋、竹原は仕事終わりに長年の付き合いの親友とカフェで雑談していた。  

なぁ竹原、この世界はなんでこんな生きにくくなっちまったんだ?いやオレ達が昔、この世界は生きづらいって話してた30年前くらいとは比べものにならないぞ。一体どうなってる?

この親友とは昔から話しが合う。元から考え方が似ていたのだ、この社会の生きにくさをずっとお互い感じてきたからだ。

そうだな、結局今のこの社会っていうのは人間の本質的な欲求が暴走する設計になっちまってるってことだ。

人間の欲求の暴走?どういうことだ?

対局的に見て。人間は可塑性のある生き物だ。社会設計次第で、人間の本質的欲求は善にも悪にも形は変わる。人間の本質は何万年も前から変わらない。

だからこそ、人間の善性を引き出す社会設計にすること、それから人間の本質を人間自体が自覚して悪い方向に行かないよう抑制する。つまり、制度と思想設計が重要となる。

人間の本質的欲求とはなんだ?

ああ、大まかに言うと

 排他性、承認欲求、比較・序列欲求、同調欲求、短期報酬・快楽衝動、 未来制御、他者制御等の本来人間の持つ本質の欲求だ。

これらが暴走したのが今の世界ってことだ。暴走する社会設計になってしまってる。そしてそれによる歪みが限界に来たのが今ってわけだ。

なんか難しい話だな?

そうか?

だがいつからその人間の本質的な欲求が歪み出したんだ?

この前も別の人に話したんだが、人間の大転換点は農耕革命だよ。農耕革命により人は色んなものを所有しちまった。

農耕が始まって、人は土地を“自分のもの”だと囲い始めた。それが所有の始まり。そこから格差が生まれ、奪う者と奪われる者が生まれた。争いも階級も、全部その延長線上にある。

つまり、歪みの原因はそこにあるわけか。

まぁな。それがどんどん激しくなり、ついには限界を迎えてるわけだ。技術やテクノロジー、文明は発展した。正の側面もあるが、人間の心はそれに合ってはいないってことだ。

ってことは農耕革命前の人達は幸せに暮らすことが出来てたのか?

その可能性は高い。奇跡的に人間の欲が暴走しない設計になっていたからな。

例えばどういうことだ?

狩猟採集の暮らしって、持てるものに限りがあった。だから欲も自然と小さくてすんだんだよ。持たないことで、自由だった。所有しないことで、縛られなかった。

あの頃の人間は、モノを持ちすぎることも、誰かより上に立つこともあまり意味がなかった。みんなで獲って、みんなで食って、余計なものは腐るだけ。誰かを排除すれば自分が困るし、承認なんかなくても生きていけた。自然が、欲を暴走させない仕組みになってたんだよ。

なるほどな。農耕革命以降歪んだ社会で苦しむ人達がいて、宗教みたいな精神安定剤が出来始めた訳か。

ああ、救われたい人が山程いるから宗教が未だ強く根付いてる訳だ。 

だが、竹原この社会はもう無理ってことか?

あぁ、基本的に社会は世界を見渡してもずっと歪み続けて来た。歪んでない時代など農耕革命以降ほぼなかった。だから基本どんな政策をやったとしても上手くいった試しはない、奇跡的に上手くいくこともあるがそれは一時的だ。人間の欲がその状態を壊すんだ。

確かにな数百年上手く回ったとか稀にあるよな。だが今このコスモス国は世界的に見てやばいよな。

いやっ実は世界的に見れば5本の指に入る良い国だ。

えっっマジか。ここ良い国だったのか?

あぁ。生まれた段階で終わってる国は山程ある。チャンスが少しはあるだけマシだ。

いやっしかし、この国はやばいって周りも言ってるが、あれはなんなんだ?

それはこの国が昔、数十年間にわたり歴史的に見ても奇跡が重なったご褒美時代があったからだよ。その時代にも歪みはあったが、それでも人が前向きに生き、希望を持てる良い時代だった。それがある種スタンダードになっちまった。だからコスモス国の国民はやばいって思いが強いんだ。

なるほどな。しかしそうなるともう無理なのか。世界は。

いや、これまではどうにもならなかった。だが今だからこそチャンスが生まれた。

どういうことだ?

AIだよ。AIの発展により人は労働から解放される土壌が出来た。これこそが最大のチャンスだ。

まっ実際に土壌ができても人は働くという概念を捨てられないがな、、、

 

そうは言っても都市を変えるのは無理だろ?

まぁな。

竹原はタバコに火をつけて煙を吸って吐き出した。

もし、仮にオレがこの社会から大犯罪者というラベルを貼られ、極悪人と言われたらどう思う?

お前がか?そんなわけないだろう。誰より世界中の人々の幸せを考えてるのは竹原だからな。

何かの間違いだって信じてくれるか?

もちろんだ。

ありがとう。

おいおい、お前なんかやったのか?

冗談だよ。もしもの話だよ。

竹原はタバコの火を消した。そろそろ行くか。家で飯ができてるからな。

なんだ竹原女か?

まぁそんなとこだ。

お前いつも隠すよな。お前ほどの色男なら女には困らんわな。いやそんなことはないさ。

嘘つくなよ。今度紹介してくれよ。

またな。

絶対嘘だろ。一度たりとも教えてくれたことはない。竹原は笑った。

ふっじゃあ楽しみにしてる。またな。

ああ。

 

 

 

シャウト 第二話

第二話 存在の証明

 

メモリアル・オリオン区の桜を二人で見てから1ヶ月後、竹原は古くからの友人が働いている養護施設に神崎と二人で訪れた。2044年、AIが社会不適合と認定した子供を施設に預ける親が増加した。社会不適合とみなされた子供が家族にいると家族全員のスコアが落ちるからだ。

神崎は竹原に尋ねた。なぜ、今日は養護施設に私を連れてきたんですか?あぁ、お前に社会から排除されている子達の現状を見せようと思ってな。

今後の社会において、排他をどう捉えていくかが課題の一つだからな。

排他、、ですか。多様性は受け入れられず同質性にこだわるのが今の社会ですね。個性的な個体、弱者は排除されていますよね。

そうだ。排他性は人間の本能でもある。だから、差別やいじめ、排除はなくならない。

だが、ある意味では排他は秩序を守るために必要なものでもある。

秩序ですか? 

あぁ。破壊的な行動や他の尊厳を奪うなどの行動を取る人間を排他しないとどうなる?

確かに、それは秩序が壊れますね。

だが、単なる個性の違いや考え方の違いで人を排他してはいけない。

そのとおりですね。今の社会は排他欲が暴走している状態ですか。

そのとおりだ。ここにいる子たち、どう思う?排除されるに然るべきか?

いえ、ここにいる子供達は、個性はそれぞれありますが排除されるような子達ではありません。むしろなぜ排除されたのかわからないくらいです。

そう。おかしな社会のおかしな基準に適合しなかった。ただそれだけなんだよ。ここにいる子たちの精神状態をどう見る?

はい。精神状態は一般的な子どもより平均的に乱れています。なかには深い憎しみを抱えてる子たちもいます。

これが排他だ神崎。よく覚えとけ。

はい。わかりました。排他は人を壊すんですね。

あぁ。それと神崎、お前に見せたかったのはあの子だ。

あそこで本を読んでいる子だ。あの子はいつも本ばかり読んでる。すごい美少女だろう。

ええ、なかなか見ないレベルの美少女ですね。

あぁ。それだけじゃない。彼女は今のAIに先天的異常個体の特級と判定されたらしい。つまり、異質中の異質ってことだ。両親に捨てられた可哀想な子だ。まぁみんなここにいる子は可哀想だが。あの子、お前の分析はどうだ?

はい。あの子をあらゆる角度から分析しました。非常に聡明で精神状態はかなり不安定。心に強い憎悪があることが見た目にも表出しています。人間の目から見たら普通の笑顔にしか見えないでしょうが。(神崎には、その笑顔が──まるで“心の裏に刃を隠した仮面”のように見えた。)

そして、、

そして?

彼女は。強いカリスマ性を有している可能性があります。歴史上の人物達とも一致する部分があります。

やはりな。それは良いことなのか?

ええもちろんです。世界を変えうる何かを彼女は持っている。それは都市のAIも分析で分かったのだと思います。

だから、今の世界を壊しうるものとして彼女を排除した。先天的異常個体の特級としてな。

残酷ですね。ああ。だがお前から見てどうだ?ここまでカリスマ性を有した奴は見たことないだろう?

はい。本当に稀にしかいません。(彼女を除いたらあなたくらいですよ)

ところで私のような分析が出来ない竹原さんがなぜ彼女の資質がわかったんですか?

いやっなんていうか、雰囲気かな。雰囲気というか存在感が他とまるで違うんだあの子は。誰に聞いてもそう言うだろう。

オレだけじゃなく、人間には他人の放つ空気感みたいなものを感じることができる。

そんな感知力があるんですか。

あぁ。ちょっと話しかけてみるか。あの子の名前はリナちゃんだ。

リナちゃんこんにちは、久しぶりだね。竹原だ。こっちはヒューマノイドの神崎。こんにちはリナさん。

こんにちは竹原さん、神崎さん。

リナは笑顔で挨拶した。

リナちゃん、何か困ったことないか?いつでも言ってくれよ。

はい、大丈夫です。

ありがとうございます。

でも、どうして竹原さんは私をいつも気にかけてくれるんですか?

いや、リナちゃんはきっと将来すごい大人になるよ。リナちゃんの周りには、いつかたくさんの人達が集まって誰よりも愛される存在になると思う。

私がですか?そんなわけないじゃないですか。どうしてそんなこと思うんですか?私が愛されるわけないですよ。

大人になればきっとわかるさ。

そうですか、、、

私はこの世界で最も価値がない存在ですよ。

笑顔でそう言い残してリナは自室に戻った。

まぁああ言うのも無理もない。そもそも彼女はAIによって異端として排除され、親からも捨てられたんだ。この施設でさえ国の管轄で、仕方なく子供を預かっているにすぎない。職員達からみても社会の厄介ものなんだ。その厄介もののなかでも特級個体だ。人の愛に触れたこともないだろう。

それは、確かにああ言うのも仕方ないですね。

リナは自室で考えていた。竹原さんとあのヒューマノイド、他の人達と何かが違う。竹原さんから感じる存在感は他の人にないものだし、あのヒューマノイドもなんか少し他のと違う気がした。でもなぜ竹原さんだけは、いつも私のこと、凄い大人になるって言うのだろう?気にかけてくれるのだろう?

だとしても、私は人間もAIも嫌い。大嫌い。憎い、この世界が死ぬほど憎い。

普通の人に生まれたかった。普通の人に生まれれば、私は苦しまずにすんだのかな。

読んでいた本を床にほうり投げ、ベッドに寝そべり天井をただ見つめていた。

 

 

2044年の初夏、スイは学校の窓から外を眺めていた。スイは学校に馴染めないでいた。というよりこの社会に馴染むことができたなかったのだ、能力の問題ではない。本人の気持ちの問題だった。この社会に違和感を感じて生きてきた。

学校なんて、いたくない。

なんでこんなとこにいなきゃいけないわけ?

ねぇ、もうやだよホントに。

大人しく型にはまる従順な人を作りたいだけじゃん。

勉強なんて何になるわけ?もう仕事なんてしなくていいじゃん。なんでAIがほとんどできるのに、働こうとするわけ?!

働かなくていいんだよ?だから、学校なんていらないじゃん。

みんなどうして違和感なく普通に笑って学生やってるの?

楽しいの?こんな無意味なこと。

その日の昼休み、担任からスイは呼び出された。お前、あらゆるスコアが低過ぎる。勉強に関しては悪くはないが、このままだと退学だな。このスコアじゃ誰も友達になってくれないだろう。いずれにしろやる気がないなら自主的に辞めた方がいい。

考えておけ。担任の態度は冷たかった。

スイは無言だった。

スイは思う、ねぇ、私たちって、評価されるために生きてるわけ?勘弁してよもうっ!!

スコア、スコア、スコアうるさいんだよ!馬鹿!!

なんで社会が私たちの価値を勝手に決めんの?

なんで他人に価値を決められなきゃ、生きちゃいけないわけ?

その日の午後の授業で、グループ分けが行われた。各自好きなメンバーでグループ分けするようにと指示があった。グループはだいたいスコアが同じレベルの人達がグループを作る。この時代、友達の作り方はスコアだ。数値を元に友人を作る。

案の定スイは孤立した。

いつもそうだ。期待もしてない。スコアが悪ければ友人すらできない。

いつから他人をスペックでしか判断しなくなっちゃったの!?それを普通としている世間の人達に失望するのは私だけ?すべてが数値化される社会で、人と関わるのに数字しか見ていない。数値が悪いからこの人と関わるのは辞めよう。友達作り、恋人、家族でさえ数値で判断。

こんな社会で生きていたくない。もう嫌っっ、、、

数週間後、スイは退学になった。

スイは退学になったことで親との関係も絶望的に悪化した。以前から関係は良くなかった。

親はスイの退学を受け入れることができないでいた。また、家族の一員のスコアが悪いと家族全員に影響する。

アンタもう学校退学になったんだから、一人で暮らして働きな。数カ月分の生活費は渡しとくから、あとは自分で働いて生活しなさい。これ以上は一切支援しないから。

あんたに存在価値あるのかね。

わかった。別にもう頼る気ないから。さようなら。

スイは家を出た。

学校に行ってないって、働いてないからって、人間じゃないみたいに言わないでよっ!!

マイノリティだったら、社会の基準と違ってたら生きてちゃいけないの?

ねぇ、なんで生き方さえ画一的なの?

生きる意味なんて、いつから必要になったんだろ。

何か成し遂げなきゃ、誰かに認められなきゃ、価値がないわけ?

生きる意味がないと排除されるの?

なんか、おかしくない?

存在の証明なんて、もう、したくないよ。

 

その後スイは一人暮らしをし、就職活動を始めるが絶望的な現実がスイを襲った。どこに応募しても、全部AIに拒否された。適性なしと診断が出た。それにより就職できなかった。働けないと、スコアは下がる。何もしなくても、下がり続ける。生きてるだけで。そう、今の社会に最初からドロップアウトしたものが生き残る道など与えられてはいなかったのだ。その現実に目の前が真っ暗になった。

どうやって生きていけばいいの?

スコアが低いと就職不利とはわかっていた。だが、選ばなきゃどこかはあると思ってた。貯金が尽きたら終わりだ。AIは働ける状態と見なし保護はない。

どうしたらいいの私、、怖いよ。不安だよ、、、このまま死んじゃうの私。一人ぼっちだよ完全に。

苦しい。苦しいよ。

胸が、苦しいっ。胸が、っくるしいよ、、

痛いよ、ねぇ誰も、助けてくれない。ねぇ、誰か、、お願い、ねぇ、助けてよ

誰でもいいからさぁ。

私を、助けてよ、、

スイは完全に追い詰められていた。なんとかお金稼がないと。

どうしよう。身体、売るしかないか。ネットで誰か探すか、、

スイはネットで相手を募集した。だがここでも現実は絶望的だった。

ねぇ、誰か私を買ってよ。どうして買ってくれないの?今の時代じゃ売春は重罪だってわかってるよ。だけど、身体さえ売れなくてどうやって生きてけばいいの?身体を売ることができた時代が羨ましい。

身体を売るってチャンスなんだよ、生きてく為のチャンスを誰か頂戴よ。。

ねぇ、神様。お願いだからそれくらいのチャンス頂戴よ。

スイは呆然としていた。

翌日、インターホンが鳴った。

スイがこんな朝早くから誰だろうとドアを開けると。警察ロボットが目の前に複数台立っていた。

あなたを売春罪で逮捕します。

え!? うそっ。まだ何もしてないじゃん。

募集した段階で犯罪になります。大人しく従わないとさらに罪が累積します。

こうしてスイは刑務所に入ることが決まった。刑期は懲役6年。この時代の売春は重罪だった。

スイは性犯罪者矯正用の独房にブチ込まれていた。

この独房では、性犯罪者の矯正の為に脳内に刺激を与える。それを定期的に行うのだ。1回目の処置が終わり朦朧とする中スイは叫んだ。

 

ねぇ、なんでさ、、なんで女だけ売春の罪がこんなに重いわけ?

貞淑な淑女でいなきゃダメ? 汚れてない女じゃないと価値がないってわけ?

私だってこうなりたくてなったわけじゃないよっっ!!

ふざけてるよね。こんなの露骨な性差別じゃん。

男は甘くて、女だけが重罪で。

性に対して、女にだけ、恥じろっていうこの社会、、、それこそ完全な性差別じゃん

女を、縛って、支配して、従属させたいだけなんだよ。

綺麗ごとで覆ってるけど、結局、使い勝手のいい女しかこの世界では、生きる許可をもらえないってわけ?

魔女狩りかよ。ビッチで上等だよ!!クソ野郎っっ!!!

 

2044年夏、竹原は仕事から帰宅した。ただいま。おかえりなさい。今日は遅かったですね。

あぁ、ちょっと仕事が忙しくてな。

そうだったんですか。珍しいですね。

まぁ、そういうこともある。

そういや親友が会社で昇進したらしい。今度祝ってやるつもりだ。

竹原はテーブルの椅子に腰掛けた。タバコを取り出し咥えるといつものように神崎がライターで火をつける。タバコを吸い込み、フーッと吐き出す。

コーヒー淹れますか?

悪いな、頼む。

はい、わかりました。

そういえば、竹原さんって前から思ってましたがそういう出世とか昇進に興味ないんですか?

ん?ないな。まったく。

特に男性は望むのでは?

かもな。だがオレは人並みでいい。別に地位や立場に興味はないんだ。まぁ、今の仕事も無難にこなしてるだけだ。

そうですか。無欲ですね。

まぁ、そうかもしれん。あまり欲は少ない方かもな。穏やかに暮らしたいだけだ。 

竹原さんの人生は穏やかには進まない気がします。世界を変えようとしてるわけですから。

大袈裟だな。まぁぼちぼちやっていくさ。

今は、あまり焦ってないように見えますが。

時機を見てるだけさ。物事はタイミングを読まないとだめだ。お前の技術力がもう少し上がるのと、都市の人々が都市外に多く流出し、カオス村がたくさん出来るタイミングを待ってるのさ。藤沢を探しながらな。

では、その時が来たら都市を出るんですか?

そうだ。時が来たら都市を出て、行くぞ、カオス村へ。

わかりました。

よし、じゃあオレはシャワーに入ってくる。先ベッドで寝ててくれ。わかりました。

寝室にはダブルベッドが置いてあり、竹原と神崎はそこで一緒に寝ている。

夜寝る前は、竹原といろんなことを話している。くだらないことから、日常の些細なこと、社会のこと、人間のこと、これからの人々の幸福についてなど。

そういえば、さっきの出世に興味ないかって話しだが、昔は競争はわりと好きだったよ。

そうなんですか?意外です。

今はまったくないよ。競争意識なんてもんは。

今の競争社会は危険どころか地獄だろ?

そのとおりですね。この社会の人間の生きにくさの大きな要因ですね。

ああ、現代社会はスコアによって人間の存在価値が数値化された評価地獄にある。

優しさや内面といった定量化できない価値は無視され、評価される者と評価されない者の断絶が進んでいる。

自由競争は本来、生き延びるための手段だったが、いまや競争そのものが目的化し、勝たなければ生き残れない社会になった。競争は承認・比較・序列といった本質的な欲求に根差しており、その欲が暴走したのが今の社会だ。

そういうことなんですね。ではどうすればよいのでしょう?

この問題を根本から解決する鍵は、非所有概念にある。

農耕革命以降、人類は所有に価値を置きすぎた。

その歪みが格差と競争を生んだんだ。

だからこそ、所有から解放された社会設計が必要だ。

 

ビューー ドンっっ

ん?

何の音でしょう。

花火だな。

花火ですか?

あぁ、神崎カーテンを開けてくれ。はい。わかりました。

ピューー ドンっっ

綺麗だな。はい。初めて見ました。花火って綺麗なんですね。

そうだな。

この都市で花火があがるなんて驚きです。

しかもなぜかここからの眺めがベストポイントですね。

誰があげたんでしょう。

さぁな。この都市に最後の情緒を演出したかったんじゃないか?

なんか、詩的ですね。

神崎は花火に夢中になっていた。

神崎の嬉しそうな顔を見て竹原は微笑んでいた。

そうそう、そういえば今日お前の誕生日だったな。はじめてオレと会話したのが今日だったからな。

誕生日おめでとう。これからもよろしく頼むよ。

 

はい、ありがとうございます。